
「Ugly Produce. Delivered.(醜い農産物。配達されます)」
アメリカ西海岸を拠点とするデリバリー系スタートアップ「Imperfect Produce」「Imperfect Produce」(インパーフェクト・プロデュース)のウェブサイトを開くと、このメッセージがまず目に飛び込んでくる。

スタートアップが大型スーパーと提携し、醜い農産物を救う
何ごとにおいても醜いものを好む人は世の中そんなに多くないだろうから、このスタートアップが誕生した背景を知らない人には、なかなか衝撃的なキャッチコピーだろう。
インパーフェクト・プロデュースのサービスは“Ugly”(見た目の悪い)野菜やフルーツをリーズナブルな価格でデリバリーすること。もちろん形の悪い野菜やフルーツでも、言わずもがな味や栄養面で何ら問題ないが、一般市場では売り物にならないため農場で廃棄されているのが現状だ。

例えばアメリカの食品廃棄に関するあるリサーチ発表では、全米における食品の年間廃棄量は約30万パウンド(13万6,077キログラム)、所帯ごとの平均食品廃棄量は年間で640ドル分にも上るらしい。これは1970年代と比べると1.5倍も増えており、何らかの対策を講じなければ今後さらに廃棄量が増えていくことが懸念されている。
この問題に目をつけたのが、このインパーフェクト・プロデュースだった。彼らは、自然食品を中心にセレクト販売する全米展開の大型スーパー、Whole Foods Market(ホールフーズ・マーケット)とパートナーシップを組み、4月下旬から見た目の悪い野菜やフルーツ(オーガニック含む)を販売すると発表した。現在は北カリフォルニアだけの取り組みだが、今後は全米展開も視野に入れられている。

食品廃棄問題、アメリカ東海岸の取り組み
食品廃棄問題に取り組んでいるのは、何もアメリカ西海岸の話だけではない。
東海岸のメリーランド州に本社を置く「Hungry Harvest」も、食品廃棄を減らすことをミッションに掲げたデリバリー系のスタートアップだ。
2014年創業で、すでに600世帯が利用している。同社の発表によれば計50万パウンド(22万6,796キログラム)の食品を廃棄せずに有効活用したとしている。そして、このスタートアップにはもう一つ特徴がある。
同社は顧客を「ヒーロー」と呼んでおり、ヒーローからのオーダー1箱ごとに契約農場を通して、新鮮な野菜やフルーツをフードバンクや教会、低所得者層らに無料で提供している。
同社の発表では全米の生活困窮者は5000万人で、これまでに寄付された野菜やフルーツは18万5,000パウンド(8万3,914キログラム)。そして今年1月、同社のCEO、エヴァン・ラッツさんがABC局のリアリティーショー『Shark Tank』に出演し、同社が希望していた投資額の倍である10万ドル(約1千万円弱)の投資を受けたことでも話題になった。

人気のテレビ番組が彼らの活動をフィーチャーし投資を決めたことから、この取り組みも今後さらに広がっていくことは容易に予想される。
「廃棄ゼロ」を取り組むレストランも
さて、ニューヨークでは前述のデリバリーサービスとはまた違うユニークな店が注目されている。
昨年9月にブルックリンにオープンしたレストラン「Saucy by Nature 」(ソース・バイ・ネイチャー)」。地元の農家でとれたオーガニックの食材を出すFarm-to-tableの店で、「Zero Waste(廃棄ゼロ)」をスローガンに掲げている。
もともとオーナーのパシェミック・アドルフさんは結婚式やイベントなどで料理を提供するケータリング会社を経営していた。しかし、店をやっているとどうしても食材が残ってしまう。パシェミックさんが頭を抱えて考えた結果、あるアイデアが浮かんだ。
「残った食材を活かすために、レストランも開こう」。
それがこのSaucy by Natureだった。
例えば、ケータリングで余ったレタスをレストランではハンバーガーやサンドイッチなどに使うといった具合に、両店でうまく食材を使い切る工夫をしている。そしてそれでも余ってしまった食材は……?
これはフードバンクに寄付しているそうなので、実質的にZero Waste(廃棄ゼロ)を実行しているレストランだ。
食品を救済するためならごみ集めツアー
食品廃棄に関する記事ということで、最後にもう一つ、私のニューヨークでの経験をつけ加えておきたい。
皆さんはFreegan(フリーガン)という言葉を聞いたことがあるだろうか?
スーパーから廃棄された賞味期限が切れたばかりの(まだ食べられる)食べ物を、ゴミ山の中から拾う活動をしている団体だ。
このTrash Tour(ごみ集めツアー)は定期的に開催されており、私は10年ぐらい前に取材で参加したことがあるのだが、いろんな意味で予想を遥かに越えた体験だった。
まず参加人数が20人ぐらいと賑わっていたということと、みんな身なりもちゃんとしたごく“普通”の人。年輩の主婦層や学生が多かった。そして何よりコソコソ拾うのではなく、楽しそうに堂々と食べ物を拾っては参加者同士でシェアしたり、とにかく和気あいあいといった印象的だったのだ。
ごみ集めツアーにはガイドがおり、4〜5ヵ所のゴミスポットに連れて行ってくれる。スーパーなどの前に大量に置かれたゴミ袋を開封して、まだ食べられそうなもの(パンや野菜、フルーツなど)をピックアップした(ちなみに、スーパーが食べ物を寄付することなく廃棄処分にするのは、経費と手間がかかるからだ)。
夜9時半ぐらいにスタートし11時ぐらいまでの間に、本当にびっくりするぐらいたくさんの食品が救済され、それぞれの参加者らによって持ち帰られた。筆者は小さい傷のついたリンゴと二重包装されたパン、そして8ドル(800円弱)もする高級ゴートチーズの戦利品にありつけたことを覚えている。
このフリーガンツアーは、今でも月に2回開催されている。もしニューヨークを訪れる機会があればツアーに参加して、大都市の食品廃棄の実態を目の当たりにしてみるのもよい経験になるだろう。
(文・写真:安部かすみ fromニューヨーク)
■取材国:アメリカ
安部かすみ(あべ・かすみ)
2002年に渡米し、在ニューヨークの新聞社でのシニアエディター職を経て、2014年からフリーの編集者、ライターに。ニューヨークから食やエンタメ、テック系などのトレンドを発信中。編集者歴は日米で20年。
TSUTAYA T-SITE(2016.4.14)「醜い農産物」を救え? アメリカ全土が本気で取り組む食プロジェクトとはより転載(無断転載禁止)