
近年アメリカでは、アルチザン(職人)による物づくりのシーンが再び脚光を浴びている。その中でもっとも注目されている新進気鋭のデザインブランドが、腕時計や革製品、ジャーナルなどのプロダクトを発表している「SHINOLA(シャイノラ)」である。
製造業のDNAがいまだ色濃く残るデトロイトで2011年に誕生し、現在国内に24箇所、国外にはロンドンとトロントにも拠点を置くなど、一大ブランドに急成長した。オバマ元大統領が着けていることでも話題になった。そのこだわりは、すべての商品をアメリカで経験豊富な匠の技により1点1点手作りしているところにある。
日本には2017年5月にメンズラインが東京の伊勢丹 新宿店(本館4階)にオープンしたばかりだが、10月4日にレディースラインも上陸。シャイノラが本国アメリカでどのように愛され、親しまれているのかを探るために、ニューヨークにある旗艦店を訪ねた。
「いつも身につけていたい」。一生使える腕時計
シャイノラの店舗はニューヨークに3店舗ある。今回訪れたのは、マンハッタンの中でもレンガ作りのお店が連なる閑静なトライベッカ地区。


歩いていると、まず石畳のストリートに面したおしゃれなカフェSmileが見えてくる。旗艦店はそのカフェ奥のスペースにひっそりと佇んでいる。まるで隠れ家を発見したかのように胸が高鳴ることだろう。
ここでは、シャイノラの腕時計を2年間ずっと愛用しているCaroline Mock(キャロライン・モック)さんが出迎えてくれた。ブルックリン在住でリージョナル(地域)マネージャーとして忙しい日々を送る彼女。週末になると大好きなアート鑑賞をしに、いろんな美術館を訪れることが多いそう。

「アメリカの近・現代美術が好きで、ホイットニー美術館の会員になったのよ。そのほか企画展によっては、クーパーヒューイッド・スミソニアン国立デザイン美術館やMoMA(ニューヨーク近代美術館)、クイーンズエリアのPS1などにも足を運ぶことがあります」
そんな感度の高いニューヨーカー、キャロラインさんが毎日欠かさず身に着けているのは、シャイノラの「The Canfield」(32mm)。ストラップの色は落ち着いたブラックで、ダイアル(文字盤)は上品さが光る白いMOP(マザー・オブ・パール)製。

「オフィススーツ、パーティードレス、週末のジーンズ……どんなシーンや洋服でもしっくりくるデザインと落ち着いた色の組み合わせになっているから、毎日着けてもまったく飽きがこないの。フェミニンな雰囲気も併せ持っているし、レザーストラップがスウィングログという手首にぴったりとフィットする仕様になっているのも気に入っているわ」
キャロラインさんはこの「The Canfield」以外にも、シャイノラの腕時計をいくつか使っているという。ほかのブランドの腕時計とはいったい何が違うのか。
「クラフトマンシップによるメード・バイ・ハンド(手作り)ということが一番の違いだと思う。細部に至るまでひとつひとつのパーツがすべて職人によるものなので、質も当然高いし、その上、温かみも感じられるんです。”Limited Lifetime Guarantee”が徹底しているのも安心ね。だから自分の人生のいろんなシーンに自然に溶け込み、一生使い続けたいと思えるスペシャルな腕時計なんです」
デトロイトでシャイノラはどのように成長してきたのか
シャイノラはデトロイトという街でどのように誕生し、人々に愛されてきたのか。製作工場があるデトロイト本社でクリエイティブディレクターとして働くDaniel Caudill (ダニエル・コーディル)さんに話を聞いた。
デトロイトといえば自動車産業の街というイメージがあるが、なぜデトロイトで腕時計を作ろうと思ったのだろうか。

「アメリカの製造業は、商品を安価にするために多くの企業が海外に生産拠点を持っています。でもスイス製の時計の技術を見ながら、『我々にできないことはない』『自社の製造工場を国内に作り、高品質の商品を自分たちで作ろう』、そう考えました。デトロイトはもともと自動車に代表されるように製造業が大変盛んなので、物づくりには最適な場所です。熟練した職人が非常に多い上に、職人以外にもデザイナーから経営全般にいたるまで、経験豊かな人を採用できる土壌なのです」

製造業を熟知したデトロイトで、まず手始めとして腕時計に着目した理由は明確だ。
「腕時計というのは製造業の中でも大変複雑な製品です。パーツも多く、細かい部品を精密に組み立てていくことが要求されます。しかしそれがきちんとできれば、ほかの商品にも応用できるとわかったので、私たちはまず腕時計から作ろうと考えました」
シャイノラの原点、腕時計「The Runwell」の誕生秘話
「シャイノラの原点とも言える『The Runwell』コレクション(写真参照)が初めて立ち上がったときのことは、今でも鮮明に覚えています」と、ダニエルさんは創業当初に思いをはせる。

「このようなデザインに決まったのは、社内でなされた数年間にわたる議論の結晶でした。検討しなかった要素はないというくらい、さまざまなアングルから、デザイン、機能、着け心地などにおいて開発を重ね続けました。完璧なものを作るために最後の最後まで思考錯誤を重ねた結果、創業のタイミングをずらさざるを得なくなったくらいです」
創業スタッフが、「The Runwell」にどれほど情熱と精力をかけたかが伝わるエピソードである。店頭での正式発売に先駆け、イニシャルロットとしてごく限られた数の商品のみをオンラインで先行予約販売したところ、たった数日間で完売したという。そしてそれは、自動車業界と共に一時は衰退したデトロイトにとって、クラフトマンシップの街としての新たな歴史の始まりを意味した。
「先行予約販売で『The Runwell』がひとつ売れていくたびに、オフィスのみんなで歓声を上げたのを昨日のことのように覚えています。このときですね、デトロイトで私たちが作った商品がどこででも受け入れてもらえるという、自信と誇りを持ったのは」
ブランド誕生から6年。世界へ、そして日本へ
2017年5月にメンズラインが伊勢丹 新宿店(東京)にて販売が開始した。そしてそれに続き10月にはレディースラインの販売も決まったことについて、ダニエルさんはこう続ける。

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