
ブルックリンのガイドブック『NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ』の著者、安部かすみが、本で書ききれなかったことや、まだあるお気に入りスポットを紹介します。「大切な友人に紹介するとしたら?」という目線で選んだとっておき。今週の私のとっておきスポットは、ダンボにある「Brooklyn Roasting Company」です。
私がニューヨークに移住したのは2002年のことですが、そのころコーヒーといえば、薄くて味もフレーバーもほとんどないものが主流で、おおよそ今市場で出回っているおいしいコーヒーとはまったく別物でした。スターバックスでさえ、数は今ほど多くなかったと記憶しています。
そして時代はサードウェーブコーヒー・ブームとなり、コクや深みのあるコーヒーが浸透し、本格的なカフェも増えました。
どんなコーヒー好きも唸らせる
ダンボにある「Brooklyn Roasting Company」(ブルックリン・ロースティング・カンパニー)(以下BRC)は、ニューヨークに数あるサードウェーブ系カフェの中でも、私にとって5本の指に入る店です。
日本からのゲストや友人を何人も連れて行ったことがありますが、どんなコーヒー好きを連れて行っても「これはおいしい!」と言ってもらえる、お墨付きです。
オーナー、マイケル・ポラックは「普通の人はコーヒーを飲みながらほかの話をするけど、僕はコーヒーを飲みながらコーヒーの話しかしないんだ」と言うほど、根っからのコーヒーラバーです。
そんなマイケルは世界46ヵ国のコーヒー農園と提携し、自らが足を運んで豆を厳選。ネイビヤードにある約1,672㎡の広い工場で焙煎&独自にブレンドしています。
「自分の店以外のコーヒーを飲まない」。そんな彼のプラインドあふれるBRCのコーヒー、おいしくないわけがありません。
マイケルは21歳のころからコーヒーを飲み続けているそうですが、ここに到達するまで数々のストーリーがありました。
以前はビデオレンタル店の経営、映画撮影、子ども用ラジオ番組の制作、主夫と子育てなど、さまざまな仕事を経験したのち、現在のビジネスパートナーと出会って、2010年に焙煎工場をオープンしたという、ユニークな経歴の持ち主です。
翌11年、隣の家具屋が退去したのを機に壁を取り壊して店舗スペースを拡大し、現在のカフェスペースをオープン。お店で飲めるようになって、ますます人気が加速しました。
焙煎コーナーに飾られた1枚の絵
日本のメディアの取材ということで、あいさつ早々に「見せたいものがある」と連れて行かれたのは、焙煎コーナーの隅にある1枚の絵。
「昔、フランスの芸術家が外壁に残して行ったゲイシャの絵なんだ」
パナマなどから輸入されるGeishaコーヒー豆(エチオピア種)とかけたもので、マイケルはとても気に入っているそうです。「店のロゴとして使いたくて許可を取ろうと思い、芸術家を探したけど、連絡先がわからずにロゴにするのは諦めた」と言います。
そんな興味深いエピソードを思い出しながらBRCのコーヒーを飲むと、さらに一層味わい深く感じるので不思議です。
(データ)
25 Jay St.
(718) 514-2874
地下鉄F線York St駅から徒歩4分
(人物キャプション)
大のコーヒー好きのオーナー、マイケル。©️ Kasumi Abe
(店内キャプション)
2017年『Men’s Journal』誌で「全米ベストロースター25」の1つとして選ばれた。©️ Kasumi Abe
女優のグウィネス・パルトローもここのファンだと、WSJ紙で語っている。©️ Kasumi Abe
(Text by Kasumi Abe 安部かすみ)
本稿はWeekly NY Japionのコラム 、安部かすみ(Brooklyn本著者)が案内する「古くて新しい、とっておきのブルックリンへ」からの転載。無断転載禁止