
アメリカの新たな投票法が、スポーツ界や企業の反感を買い、製品のボイコット問題にまで発展している。
メジャーリーグ・ベースボール(MLB)は、南部ジョージア州が新たに定めた投票法(SB 202)への抗議として、7月に開催予定の今季オールスターゲームとドラフト会議の開催地を、同州アトランタからコロラド州デンバーに変更すると発表した。
また異議を唱えているのはMLBだけではない。アトランタが拠点のコカコーラ社も、CEOが同様に新法を非難する声明を発表。これを受け同州の知事や共和党議員らは「同社が制御不能なキャンセルカルチャーに貢献している」と主張し、自分たちのオフィスからコカコーラ商品を撤去すると発表した。
州法はどのように変更?
ニューヨークタイムズ紙は、98ページにわたる新たな投票法を分析している。その上で、「選挙で共和党が民主党に負けたことをきっかけに、不在者投票により厳しく制限を設けることで複雑化し、有権者を混乱させようとしている」とした。
同紙が分析した、変更後の主な内容。
- 不在者投票をリクエストできる期間の短縮。
- 不在者投票や期日前投票には、厳格なID(身分)提示が求められる。
- 選挙管理人が不在者投票の申請書をすべての有権者に郵送することは違法。
- 街角の投票箱は引き続き置かれるが、設置数は削減される。
- モバイル投票センターは基本的に禁止。
- 期日前投票は多くの郡で拡大されているが、人口の多い郡を除く。
- 列に並んで待つ間、有権者に対して食べ物や水の提供は軽罪となり得る。
- 事前登録した所と違う投票所へ行くと、投票が(さらに)困難になる。
- 選挙の問題が発生しても、投票時間の延長は困難になる。
- 投票率の高い選挙は、結果が出るのに長い時間を要する。
など

改正法の何が問題なのか
この新たな改正法はジョージア州議会で共和党が提案し、ブライアン・ケンプ州知事が署名、先月25日に成立した。
改正内容について共和党は、「昨年の大統領選を受け、今後の不正選挙を防ぐ」名目で提案したという。しかし民主党からは、黒人やマイノリティの有権者に負担をかけるものだとの批判が上がっている。
黒人やマイノリティ(そしてなぜか投票ができることもある違法滞在者)の中には、運転免許証など政府発行の正式なID(身分証明書)を持たない人もいる。また、低所得者の多い地区では投票所の数が少なく、投票日に長い列ができる。そのためフードや水などが配られることがあるが、それも今後は禁止となる。
抗議の声を上げる企業はほかにも
抗議の声を上げた企業は、コカコーラのほかにアトランタを拠点とするデルタ航空やホームデポも、改正法が有権者の権利を抑圧するものとして非難している。
大企業の代表らも有権者の権利の擁護について触れ始めた。
【改正法の反対派】
- (ジョージア州の法律とは明記していないものの)「我が国の選挙制度に不正が蔓延しているという疑惑について数々の調査が行われ証拠ゼロにも拘らず、選挙システムの完全性を疑問視している者がいる。同胞の投票権を侵害するような法律は間違い」(ユナイテッド航空)
- (CNNで有権者の権利の擁護を表明し)「我々は定期的に従業員に対し、彼らの投票権を行使するよう奨励しており、その基本的権利を妨げる可能性のあるものに反対を表明する」(JPモルガン・チェースCEO、ジェイミー・ダイモン氏)
- 改正法を非難し「投票はもっと簡単になるはずだ。テクノロジーよ、ありがとう」(アップルCEO、ティム・クック氏)
バイデン大統領も「投票する権利の否定だ」「現代のジム・クロウ法」だと改正法を強く批判した一方で、州法が投票時間に与える影響について誤った情報を広めたとして、本来ならバイデン擁護派のワシントンポスト紙から「4つのピノキオ(嘘つき)」と批判された。
改正法の賛成派も応戦している。
【改正法の賛成派】
- 「投票を容易にし不正行為を困難にしたことに対して謝罪なんてない」(ケンプ州知事)
- (MLBやコカコーラ社に対して)「州民を故意に誤解させ、偉大な我が州の分裂を深めようとしている」「娯楽が党派的な政治の影響を受けているだけでなく、誤った政治的シナリオを広めているのは恥だ」(州議会議員)
- 「(MLBは)選挙の際に絶対に必要なIDカードを持とうとしない民主党の極端な左派を恐れている。自由で公正な選挙を妨げようとする野球をボイコットしよう」(トランプ氏)
このように、両者は真っ向から対立している。
ちなみにMLBの決定について、ニューヨークポスト紙が報じた新たな世論調査では、全米の成人の39%、MLBのファンの48%、中でも熱狂的なファンの62%がアトランタからの会場変更を決めたMLBを支持すると回答した。また、民主党員の65%が支持を表明したのに対し、共和党員は14%にとどまった。
一方、ジョージア州の改正法そのものへの評価は、国民の42%が賛成、36%が反対とし、賛成派がわずかに多い結果だった。
Text by Kasumi Abe Yahoo!ニュース 個人より一部転載)無断転載禁止