
東京オリンピック・パラリンピックまで60日を切った中で、日本政府が発表した6月20日までの緊急事態宣言の延長について、アメリカの主要メディアも続々と報じた。
◇ 公式パートナー「朝日」も大会中止を求める
ニューヨークタイムズは「Japan extends a state of emergency until one month before the Olympics.」(日本は緊急事態宣言をオリンピックの1ヵ月前まで延長)と報じた。
同紙は、朝日新聞が行なった最新の世論調査結果を引用し、回答した人の83%が今大会の延期または中止を望んでいることや、朝日新聞がオリンピックの公式パートナーであるにも拘らず、菅首相に対して大会中止を求める社説を今週掲載したことなどについて紹介した。
また、関係者による最新コメントとして、以下のように触れている。
「理事会では誰も、大会を中止または延期にすべきという見解を明確には述べていない」
「新型コロナウイルスの症例数が減少するにつれて、世論は『改善するだろう』」
- 東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の武藤敏郎事務総長(27日に行なった記者団との懇談にて)
◇ 利害関係に動機付けられ開催の確固たる姿勢を維持
一方ワシントンポストも「As Olympic opposition intensifies, Japan extends coronavirus state of emergency until late June」(オリンピック反対が高まる中、日本は緊急事態宣言を6月下旬まで延長)と報じた。
同紙も、朝日新聞による最新の世論調査と社説を紹介しながら、IOC(国際オリンピック委員会)について「(それでも)莫大な財政的な利害関係に動機付けられた東京大会を開催するという、確固たる姿勢を維持」と述べた。
同紙も、関係者や有識者の最新コメントとして、以下のように触れている。
「東京はオリンピック史上最も準備の整った主催都市だ」
(アスリートへのコメントとして)「大きな自信を持って来日し、大会に向け準備をしてください」
- IOC、トーマス・バッハ会長(27日)
「大会まで60日を切った。大会がもし中止ということになるのであれば、それはもっと早くに決まっていたはずだ(大会中止の可能性を否定)。私たちは今、大会実現に向かっているモードだ。開催のための運営手順はすべて進行中」
(万が一、開会式まで東京の緊急事態宣言が延長された場合でも)
「大会は(開催に向け)進められるだろう。なぜなら緊急事態宣言はバブル(試合会場や選手村、選手や関係者が、外部の一般市民との接触を遮断されていること)の外側で行われるし、関連施設および周辺は厳重に(感染防止対策が)整えられる予定だから」
- IOCの最古参委員、ディック・パウンド氏(27日の電話インタビューにて)
「IOCは世論に注意を払いながらも、内部で世論調査も実施している。外部からの批判により決定を左右されることはない」
「最新の科学に基づいての開催決定であり、大会実現に向け進められれば、否定的な声が多く集まってくる(のも避けられない)」
「(ワクチン接種済みの選手や関係者数は)*非常に多く、増えている」
- IOCの広報担当責任者、マーク・アダムス氏(今月初め)
*(同紙は、IOCが選手村を利用する大半の選手や関係者が新型コロナのワクチン接種を済ませていることを期待しているが、IOCが接種済みか否かをどのように把握しているのか、そもそも把握自体をしているのかなどについては不明としている)
「1年間かけてコロナの感染防止策を学び、ワクチン接種が浸透したことで、オリンピックに向けて楽観的に考えられるようになった」
「我々は昨年オリンピックが延期されて以来、長い道のりを歩んできた。よって大会は無事に、そして安全に開催できると思う。しかしながら当然、多くの作業が伴う」
「アスリートたちがマスク着用やソーシャルディスタンスなど(*プレイブックに明記された)一般的な感染防止策をきちんと理解し、それに従うことが重要だ。また、選手村ではその情報が多言語でしっかりと伝えられる必要がある」
- 新型コロナウイルスの感染者情報を公開しているジョンズ・ホプキンス大学の上級研究者で、2004年アテネオリンピックの銀メダリスト(水泳)、タラ・カーク・セル博士
◇ ますますファン不在の大会になりつつある
AP通信は「Tokyo Olympics looking more and more like fan-free event」(東京オリンピックは、ますますファン不在の大会になりつつある)と報じた。
緊急事態宣言が大会のわずか1ヵ月前まで延長され、「現地」の観客を受け入れるか否かの判断もまだされていないことについて、同メディアは「会場が空になる可能性が高くなった」と、完全無観客試合の可能性も示唆した。
記事には、オリンピック・パラリンピック両大会合わせて、期間中に海外から来日する人数は、200を超える国と地域から、1万5000人の選手に加え、何万人もの審判、関連スタッフ、VIP、メディアになるだろうとある。そしてIOCの情報として、選手と関係者の80%以上がワクチン接種済みの予定としている。
また今週初めに、米医学雑誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』が解説記事の中でこのように述べたことも紹介した。「大会開催に向け進めるというIOCの決定について、最も信頼できる科学的根拠に基づいていないと考えている」。
同メディアも、以下のように関係者のコメントを紹介した。
(緊急事態宣言下にあったとしても、開催されるかどうか尋ねられ)
「はい、もちろん(開催)です」
- IOC副会長、ジョン・コーツ氏
「アルマゲドン(世界戦争、人類滅亡)でも起きない限り、大会は進む」
- IOCのシニアメンバー、リチャード・パウンド氏(今週、英国の新聞に対して)
日本で最近物議を醸した「犠牲発言」については
「『オリンピック・コミュニティーのすべて』が、犠牲を払わなければならない」
- IOC会長、バッハ氏
つまり、犠牲を払う主語は日本人ではなく「関係者」であるとする、バッハ会長の発言を改めて強調した。
以上が主要メディアの報道概要だ。
このほかにも、アメリカではさまざまなメディアがオリンピック開催目前に再発令された緊急事態宣言の延長について報じた。
最近ではニューヨークのプライムタイムに放送されるローカルニュース番組でさえ東京オリンピックの話題を扱っており、メディアを筆頭に「安全な開催」への関心がじわりじわりと高まっているのを感じる。
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Text and photo by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース 個人より一部転載)無断転載禁止