ロシアが米スター選手ブリトニー・グライナーを解放するも、米国が手放しで喜べない理由

違法薬物所持容疑で今年2月からロシアに拘留されていた、WNBA(女子プロバスケットボールリーグ)の大スター、ブリトニー・グライナー(Brittney Griner、32)選手が、8日釈放された。

囚人交換という形で、グライナー氏と交換されたのは、アルカイダやタリバンに武器を売ったとされ、武器密輸および殺人罪でアメリカ国内の刑務所に収監されていたロシア人、ヴィクトル・ブート(Viktor Bout)だ。ブート元受刑者も同時に釈放され、同日アラブ首長国連邦(UAE)の空港で2人の身柄が交換された。

(写真)2010年、タイから米ニューヨークに移送される、ヴィクトル・ブート元受刑者。

釈放においていくつか伝えられているグライナー氏の近影では、長かった髪を短くカットし、笑顔も見られる。グライナー氏はすでにアメリカへの帰国便に搭乗しており(機内での映像で同氏は「どの街に飛んでいるかわからない」と答えているが)、テキサス州サンアントニオに着陸予定とされている。

この一報は、年の瀬の全米中に突然入ってきたものだが、囚人交換の交渉はアメリカとロシア間で、水面下で進められていたようだ。

ロシアでグライナー氏の弁護をしていた人物がCNNに語ったところによると、釈放に向けての兆候は先週より見られたという。その弁護士のもとに先週末グライナー氏から電話があり、「希望がある」と語ったということだ。

国際テロ組織に武器を密輸したブート元受刑者は「死の商人」との異名通り、多くの死をもたらしたのであるから、アメリカをはじめとする西側諸国では紛れもなく重罪人だ。そんな危険な男の釈放・帰国を、ロシア側は渇望し、グライナー氏との捕虜交換条件に挙げていた。結果的にそれに応じた形となったアメリカは、これほどにない譲歩をしたということになる。ロシア側からすると、為て遣ったりの結果をもたらした。

グライナー氏が無事に釈放され帰国し家族のもとに戻るのは朗報であることは確かだ。

しかしその交換条件について、同日のホワイトハウスの定例記者会見では、記者から疑問視する声が上がった。

またさまざまな著名人からも、疑問視する意見が上がっている。

アメリカンフットボール(NFL)のマイカ・パーソンズ(Micah Parsons)選手は、ツイッターで「ちょっと待って!! 元海兵隊員を残したままだけど?!! まじかよ」とつぶやき、この取引についてバイデン政権の決断に不満を表した。(その後「ツイート内容はグライナー氏を攻撃するものではない」「もっと正しい知識を持つべきだった」などと釈明)

元海兵隊員とは、2018年にスパイ容疑で16年の刑期が言い渡されロシアの刑務所に服役して4年になる、カナダ生まれでアメリカ国籍保持者、ポール・ウィラン(Paul Whelan)氏のことだ。

(写真)$ ロシアにスパイ容疑で起訴された元米海兵隊のポール・ウィラン氏。2019年10月、モスクワの裁判所で。

パーソンズ選手のツイート内容は瞬く間に炎上し、最初の投稿内容は削除されたが、そのツイートにリプしていたのは元NFLのブーマー・アサイソン(Boomer Esiason)氏。アサイソン氏もパーソンズ選手の意見に同意し「多くの人がそう思っている。もちろん帰国は喜ばしいが、WNBAのアスリートを取り戻し、何年間も釈放できていない海兵隊員を残したまま。米国政府は何の動きもなし。ロシアはこの男(ブート)を取り戻すために、彼女(グライナー)を利用した」。不平等な交換条件とロシアに残されたままのウィラン氏を思うと「手放しで喜べない」と述べた。

さらにバイデン政権の決断について、共和党の議員からも、いくつか疑問が上がっている。

フロリダ州のリック・スコット(Rick Scott)上院議員は帰国自体は「喜ばしい」としながら、「ウィラン氏については? バイデンがプーチンに危険な武器商人=死の商人を返すのは、(国として)弱く不快である。容認できない」とツイートした。

ほかの議員からも

「(国を守ってきた)退役軍人よりセレブ優先?」

「元海兵隊のウィラン氏や教師のマーク・フォーゲル(Marc Fogel)氏は置き去り。プーチンはこれで味をしめてしまった」

「(バイデン)政権の無能な交渉能力について大いに懸念」

「甘い取引に応じて、外国がより多くのアメリカ人を拘束するインセンティブ(メリット)を作り出した」

などの非難が次々に上がっていると、フロリダポリティクスは伝えている。

CBSニュースなどが伝えるところによると、アメリカに与えられていたカード(選択権)は少なく、ロシアが求めてきた重罪人との交換に応じるか、もしくは誰一人としてアメリカ人を釈放できないままでいくかのどちらかしかなかったとした。

結果として、テロ組織との繋がりが強い危険人物を再び野放しにすることに応じてしまったというわけだ。

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Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース 個人より一部転載)無断転載禁止

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