NY地下鉄ホームレス殺害起訴されず。息の根止める危険な技「チョークホールド」とは?

ニューヨークの地下鉄で今月1日、黒人男性が乗客に首元を圧迫され殺された。その時の様子を映し出した動画がSNSで拡散され、物議を醸している。 ホームレスのジョーダン・ニーリー(Jordan Neely)さん(30歳)は、路上でマイケル・ジャクソンのモノマネ・パフォーマンスをし生計を立てていたが、精神疾患を患い、家賃が高騰した市内でホームレスの身だった。 同日午後2時半前、ニーリーさんは地下鉄F線で迷惑行為を始めたとされる。当地では物乞いをするホームレスや喚き散らす不審者がたまにいる。コロナ禍以降、地下鉄での凶悪事件が急増しているため、警官が目を光らせ乗客も少しの異変に敏感になる。 ニーリーさんはこの日、電車内で大声で空腹を訴え、「自分は死んでもいい」と言いながら乗り合わせた人々を脅し始めたという目撃情報がある。それを止めに入ったのが、24歳の白人男性、ダニエル・ペニー氏だった。ペニー氏はニーリーさんの背後から腕で首を圧迫させる「チョークホールド」を加えた。ニーリーさんは次第に意識を失い、病院で死亡が確認された。ガタイが良いペニー氏は、21年に一時除隊するまでの5年間、米海軍に所属していた。 SNSで拡散された動画では、首元をしばらく圧迫されたニーリーさんの死にゆく様子が映し出されている。男3人がかりで拘束され手足を動かしながら抵抗を見せていた。次第に目を閉じ、ほとんど力が残っていなかったようだがペニー氏は最後まで手を緩めていない。このような動画が拡散され、遺族にとってたまったものではない。 ニーリーさんの母親は2007年に殺人事件の被害者となりすでに他界。ニーリーさんの精神は母親の殺害後に乱れたという情報もあり、これまで薬物乱用や暴行罪など数々の逮捕歴があった。 この殺人事件は、アメリカそしてニューヨークが抱えるさまざまな問題を炙り出した。 一つは、地下鉄で多発する事件 一つは、増え続けるホームレス問題 一つは、増え続ける精神疾患患者の問題 一つは、黒人への暴力 一つは、(社会的弱い立場の)人間の正義 そして、チョークホールド。 チョークホールドとは? チョークホールドとは、相手の背後から腕を使って首元を圧迫する技で、プロレス技のヘッドロックに似ている。頚動脈をふさぐ非常に危険な技で、首絞め、絞め技、裸絞め、スリーパーホールドなどとも呼ばれる。かけられた相手は息ができず、次第に意識がなくなる。ニューヨーク州では2020年の警察改革で、警官であってもチョークホールドを加えることは禁じられるようになった(後述)。 ニーリーさんの死亡事件で、加害者が行ったのはまさにチョークホールドだった。加害者は一時期海軍に所属し、その間2度戦地に赴いたことがある。そのような経験があれば弱々しいホームレスを相手にどの程度の力を加えると死に至るかは知っていたはずである。 ニューヨークタイムズも「ニーリー氏の死はあってはならない悲劇であり、もっとも弱く社会から阻害されている立場の市民に対して、市の政策が不十分であることを浮き彫りにした」と問題提起した。 ニューヨークは、黒人男性へのチョークホールドで死に至った事件のトラウマがある。9年前のエリック・ガーナー窒息死事件だ。ミネアポリスの白人警官が膝で首を押さえ殺害したジョージ・フロイド氏の殺人事件を発端にした2020年のBLM運動の前兆とも言える大事件だった。 エリック・ガーナーさんの事件は、ニューヨーク市スタテン島で2014å¹´7月17日に発生。43歳の黒人男性、ガーナーさんが警察と押し問答の末、白人のダニエル・パンタレオ警官にチョークホールドされ、「I can’t breathe(息ができない)」と何度も訴えながら死んだ。 パンタレオ氏は不起訴となり、ガーナーさんの死の正義のため市内で抗議活動が起こった。パンタレオ氏はその後、NYPD(ニューヨーク市警察)を解雇処分となったのだが、ガーナーさんの死の5年後、2019å¹´8月19日のことだった。 事件自体は、遺族が市を相手に訴訟を起こし、賠償金590万ドル(現在の為替で約8億円)の支払いで和解した。ガーナーさんの死が引き金となり、20年にはニューヨーク州の警官に対してチョークホールドを禁ずる、エリック・ガーナー・アンチ-チョークホールド法(Eric Garner Anti-Chokehold Act)が可決された。 今回ニーリーさんを殺害した加害者のペニー氏は、一時的に拘留され警察の事情聴取を受けたが、自衛と認められ逃亡の危険性もないことから同日釈放されている。起訴はされておらず、地方検事により捜査が進められているが、今後起訴されるかどうかも不明だ。 ニーリーさんの死の説明責任そして正義のため、当地では再びデモが起こっている。一方で、ニーリーさんが問題行動を起こしていたことから、市民の中にはペニー氏に同情し擁護する声も上がっている。 過去記事 Photo: 「黒人のジョーダン・ニーリーを殺したのは誰だ?」と書かれたNYの地下鉄。 Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース 個人「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)無断転載禁止

「このままでは中国が」岸田首相のアフリカ歴訪前、米副大統領も。日米がアフリカに近寄らざるをえないワケ

岸田首相がアフリカ4ヵ国を歴訪し、その成果が伝えられた。 今回のアフリカ訪問で、首相はエジプト、ガーナ、ケニア、モザンビークを訪れた。19日から広島で始まるG7サミットを視野に入れたもののようだ。グローバルサウス(新興国・途上国)はロシアとの関係が深く、G7と距離を置く国も少なくない。「サミット前にグローバルサウスとの関係強化の狙いがあった」と、日本のメディアで伝えられた。 アフリカ訪問と言えば、実はアメリカもカマラ・ハリス副大統領がつい先ごろ歴訪したばかりだ。 ハリス氏は今年3月26日から1週間かけてガーナ、タンザニア、ザンビアの3ヵ国を訪れた。 米要人が立て続けにアフリカ訪問 ハリス氏だけではない。ここ数ヵ月の間にアントニー・ブリンケン国務長官、ファーストレディのジル・バイデン氏、ジャネット・イエレン財務長官、米国の国連大使のリンダ・トーマス-グリーンフィールド氏といった要人中の要人が、アフリカ諸国を次々に訪問している。 これだけの要人が立て続けにアフリカを訪れる理由は何だろうか。ニューヨークタイムズでその理由が詳しく解説された。 4月6日付のポッドキャストでは、出演した記者が「最大の理由は中国だ」と述べた。アフリカ大陸において中国に多くの地位を譲ってしまったことへのアメリカの焦りが感じられるという。どうやら「このままではまずい」ということのようだ。 ハリス氏のアフリカ歴訪の表向きの理由は、アフリカ大陸への投資と発展促進への約束だが、一番伝えたかったシンプルなメッセージは、「あなた方の友人は中国ではない。我々アメリカなんですよ」ということらしい。 3月27日付の記事、In Africa, Kamala Harris Looks to Deepen Relations Amid China’s Influence(中国の影響力が広がる中、ハリス氏はアフリカとの関係を深めようとしている)でも、同様の見方が伝えられた。 ここ数年、アフリカのリーダーたちは西側諸国からデモクラシーについての教義を受けるのではなく、国同士が強固に繋がり合うことで貿易面や経済面での利益を求めている。そこに出てきたのが中国だ。 中国は過去20年間にわたり、アフリカ諸国へ多額の投資やインフラの構築の支援を行い、彼らにとって主要な貿易相手国にのし上がった。 記事によると、2019年ガーナ政府は高速道路の建設を含む数十億ドル規模のインフラ投資と引き換えに、中国がボーキサイト鉱石を採掘することを許可した。またタンザニアのサミア・スルフ・ハッサン大統領は昨年11月、中国の習近平国家主席と会談し、中国がタンザニアの農産物により多くアクセスできるよう複数の経済およびインフラ協定や、中国による22億ドル(約2900億円)の鉄道協定に調印した。新型コロナのパンデミックにより債務不履行に陥ったザンビアは、同国にとって最大の債権国である中国と「特別な関係」を築くことを約束した。 このように中国側は、アフリカ諸国の援助に心血を注いでいる。「中国外相が毎年初訪問する国はいつもアフリカだ。小さな国々でさえ中国が熱心にそつなく寄り添う姿勢を見せている」。またアフリカの学生に対して、教育奨学金の提供も行う。「このように築かれた関係性は強固で、彼らにとって中国は掛け替えのない需要なパートナーになった」と、専門家の意見が添えられた。 バイデン政権も「未来はアフリカである」と認識しているが、今その未来を握っているのは中国の方だ。このようにアフリカ大陸での中国のプレゼンスの高まりの中、アメリカもまんまと引っ込んでばかりはいられない。 アフリカ諸国の安全保障のため、1億ドル(約130億円)規模の援助を発表し、バイデン政権は来年度の予算にガーナへの1億3900万ドル(約180億円)の財政支援を盛り込む予定だ。 中国が重点を置いているインフラ構築は現地の人に日常使いされる橋、空港、ダムなど「わかりやすいもの」だ。一方、アフリカ諸国でのアメリカの焦点は、内戦が続くソマリアでテロと戦うためのインフラの構築など、テロリズムと治安面での対処に移行している。アメリカと違い、中国の支援は人権問題や労働条件、環境保護など関係なしに無節操に行われる。この点でもアメリカはアフリカにおいてより不利な立場にある。 記事によると、中国がアフリカに関与し始めたのは1999、2000年辺り。中国は自国企業に国外進出と投資を奨励。それは中国が必要としていた鉱物資源を中国に持ち帰ることにもつながった。そのようにして中国とアフリカは強固な関係で結ばれたのだ。 2013年、中国は現代版シルクロードとして野心的なインフラ・プロジェクト、一帯一路構想(Belt and Road Initiative)を発表した。特にアフリカでは都市と農村をつなぐ高速道路や鉄道の建設を進めており、中国はアフリカのみならず世界中にこのプロジェクトを拡大することを目指している。 アメリカがここ数ヵ月で高官を派遣することを決めざるをえなくなったのは、「今、手を打たないとまずい」と思ったからだ。 その判断のきっかけは、ロシアのウクライナ侵攻だった。 ロシアにウクライナからの撤退を求めた国連総会決議では、アフリカの多くの国が棄権、不参加、一部が反対を表明した。多くの国が、何が正しく何が間違いかを表明することに消極的になっており、アフリカ諸国の多くのリーダーは、この戦争を自分たちの戦争や自分たちの問題ではないと考えている。であるから、今後も彼らにとっては大切な盟友、中国やロシアとの取引は継続するだろう。 アメリカにとって、アフリカとの関係は一筋縄ではいかない理由はほかにもある。人権問題の一つ、LGBTQや同性愛者の権利はバイデン政権がサポートし推し進めようとしているものだが、記事によると、ザンビア、ガーナ、タンザニアを含むいくつかのアフリカ諸国では逆の方向、つまりそれらの権利が脅かされる動きがあるという。ガーナのナナ・アクフォ-アド大統領との記者会見で、これらについて尋ねられたハリス氏は、「問題を提起した」と述べるに留まり、誰とどの国でという詳細の言及はなかった。 ザンビアで21年に就任したばかりのハカインデ・ヒチレマ大統領は、アメリカ寄りでアメリカが介入できる機会になるかもしれないという期待もある。だが、アフリカ諸国にとって東側諸国、西側諸国どちらか一方と仲良くすることは国策として賢明ではないという見方もあり、国の利益と発展のために両勢力とバランスを取りながらより良いディール(取引)を選択し、発展していくのではないだろうか。西側諸国として日本、アメリカ、共に今後も粘り強くアフリカとの関係性を築いていく必要があるだろう。 Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース 個人「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)無断転載禁止

近所の騒音苦情。深夜「赤ん坊が寝られない」と注意した家族を銃で「処刑」米報道

Photo by kat wilcox on Pexels.com アメリカ、テキサス州クリーブランド市で先月28日深夜、男が住宅に押し入りライフル銃を乱射、8歳の男の子を含む5人が死亡、少なくとも3人が怪我をした。 事件のきっかけは「赤ちゃんが寝る時間なので静かに」という隣人の注意からだった。 38歳のフランシスコ・オロペザ(Francisco Oropeza)は深夜、自宅の庭で射撃の練習をしていたところ、隣人から「幼児が何度も目を覚ますので、射撃を止め静かにするよう」促された。容疑者はその注意に激昂し、犯行に及んだと見られている。 事件後、オロペザ容疑者は逃走したが、4日後の今月2日夕方、自宅のクローゼットに積まれた洗濯物の山の中に隠れているところを発見、拘束された。重罪犯の逮捕妨害など蔵匿の重罪で、52歳の妻もその場で逮捕された。 この事件は闇が深い。 日頃から近所のいざこざがあったのだろうか? 事件に使われたのはAR-15型ライフルで、米各紙は「5人全員が頭を撃たれ、処刑スタイルで殺された」と報じた。 容疑者はメキシコ国籍で、これまでアメリカへの不法入国を繰り返し、2009年から16年の間に4回も強制送還になったと報じられている。また別の罪で懲役刑も下されていた。 そのような人間がなぜ、銃(しかも戦場で使うような殺傷能力の高いライフル銃)を持つことができたのか、謎は深まる。 ここは中南米の人々が身を寄せ合う地区なのだろうか? 殺された家族はホンジュラス国籍で、住宅には10人程度がいたというが、永住権を所持する1人を除き全員が不法滞在者だった。 容疑者の逃走中、テキサス州のグレッグ・アボット知事は、国外逃亡の恐れもある凶悪犯罪者の逮捕のため、報奨金5万ドル(約670万円)を提案していたが、FBIによってさらに金額が引き上げられ、最終的には8万ドル(約1,000万円)がかけられていた。 比較的、住宅や敷地が小さく隣人との距離が狭い日本では、隣接した公園の子どもの声がうるさいなど近所の騒音問題や、タバコの煙など匂いの問題がたびたび問題として挙げられる。一方、住宅や敷地が広いアメリカでは、子どもの声や匂いの問題などは聞かないが、それでも近所とのトラブルが大事件に発展することがたまにある。 特に大都市になるとアパートが小さいので、近所や子の騒音問題、タバコの煙問題、散歩中の犬の糞尿被害というと、大都市で発生することの方が多いだろう。筆者は大事件にはならなかったものの、隣人と騒音問題で数年前にトラブルになったことがある。 アメリカ全土で考えれば、住環境がゆったりしているので、本来であれば隣人とのトラブルは起こりにくいはずだが、庭が広いが故に射撃練習の音が引き金となり、このような痛ましい悲劇が起きてしまった。 米での乱射事件 過去記事 Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース 個人「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)無断転載禁止

80年代ヒット映画『セーラー服と機関銃』はアメリカ人にどう映った?(相米慎二作品NYで上映中)

2001年に53歳で亡くなった相米慎二監督の軌跡がアメリカ・ニューヨークで蘇っている。 日本文化を紹介するジャパン・ソサエティーで、グローバス映画シリーズ「相米慎二の世界:不朽の青春」(Rites of Passage: The Films of Shinji Somai)と題した相米氏の映画祭が、5月13日まで開催中。 厳しい演出で役者の持つ力を発揮させることに長けたと評される相米氏。薬師丸ひろ子、永瀬正敏、河合美智子、工藤夕貴、牧瀬里穂など多くの才能を発掘してきた。 その中でも特筆すべきは、81年の薬師丸ひろ子主演の大ヒット作『セーラー服と機関銃』だろう。同作(完璧版)がニューヨークで上映された4月29日、チケットは売り切れ、会場は満員御礼の人気ぶりだった。 同作は女子高生(今で言うJK)の泉がヤクザの親分になる奇想天外なストーリーで、身勝手な大人社会に放たれた怒りが表現されている。 一番の見せ場は後半、泉が機関銃を乱射する、あの時代を生きた者なら誰もが知るシーン。時が止まったかのような特徴的なサウンドとモーションの中、一世を風靡したセリフ「快感(カイ・カン)」が放たれる。現代においては物議を醸すであろう過激なアクションシーンは当時の日本でも大きな話題となった。 またマリリン・モンローよろしく泉がセーラー服にヒール姿で雑踏を歩き、人々に囲まれ、地下から吹き上がる風でスカートがめくれ上がるシーンも印象的だった。相米氏が何を伝えたかったのか、その思惑をあれこれ妄想させる。 劇場に足を運んだほとんどのローカルの人は、相米氏や薬師丸氏の名声も知らなければ、この映画があの時代の日本人の心を引きつけたことも、さらには「こ〜のまま〜何時間でも〜抱いていたいけど〜」*のメロディも知らない。そんな中、何人かに感想を聞いたら、受け止めはさまざまだった。 旅行をしたことがあったとしても、ケータイもネットもない時代の日本の風景は、さぞや新鮮に映っただろう。何人かは「よかった」「興味深い映画だった」と評価した。「機関銃のシーンは受け止めが難しい」という声もあった。東京に6年住み日本語を流暢に話すアメリカ人も第一声で「興味深かった」と言った。その一方話をよく聞くと「コンテキストで理解するのが難しかった」とも。「おじん」など死語のせいかと思いきや、言葉の問題ではないらしい。 「80年代の日本を知らないので、話の流れのツァイトガイスト(その時代の思想や問題などから考えること)が難しく、監督が言わんとしていることがわからなかった」 作品はアメリカ向けに作られたものではないし、当時の状況や文化背景を知らないとこの映画の真骨頂はやや伝わりづらいのかもしれない。ということは、若い世代の日本人が観ても同様の感想になるのだろうか?(当時を知る筆者はヒット曲が懐かしく、また「快感ブーム」になったあのシーンを見届けられただけで満足だったが) 相米氏の没後20年となった2021年には特集上映イベントが組まれ、リアルタイムで相米作品を知らない世代の若者が劇場に詰めかけ、人気が再燃したと伝えられている。主催のジャパン・ソサエティーによると、日本国外のファンの間でも相米作品は「再び人気となり、作品について再評価がされている」という。 今回の期間中は、『セーラー服と機関銃』の完璧版と初公開版、『台風クラブ』『ラブホテル』『ションベン・ライダー』『魚影の群れ』『東京上空いらっしゃいませ』『光る女』がラインナップされている。5月5日には『光る女』に出演したMonday満ちる(秋吉満ちる)氏も、上映会に特別ゲストとして登場する予定だ。 注: * 1981年の大ヒット曲。曲名『セーラー服と機関銃』、歌手:薬師丸ひろ子、作詞:来生えつこ、作曲:来生たかお Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース 個人「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)無断転載禁止

『セーラー服と機関銃』NYで上映:相米慎二映画祭開催中。ジャパン・ソサエティーで

Photo: グローバス映画シリーズ「相米慎二の世界:不朽の青春」@ Japan Society (c) Kasumi Abe 映画監督、相米慎二(そうまいしんじ)氏の映画祭がニューヨークのジャパン・ソサエティーで開催中。 28日のオープニングイベントには、80年代〜1990年代の相米作品を知る世代のみならず、アメリカのローカルの幅広い映画ファン、日本文化ファンが一堂に会した。 言葉のチョイスとして今では誰も使わない死語や山の手言葉も散りばめられ、時代の移り変わりを感じる。また、この時代の日本映画はおそらく今の時代であればNGな表現も大胆に取り入れられている。ネットもケータイもない時代だが、逆に表現豊かな良い時代でもあったなと思いながら鑑賞した。 ここでは3作品をピックアップ(以下、多少のネタバレ含む) 85年『台風クラブ』 初日の『台風クラブ』は、思春期の中学生を題材にした85年の映画。 時はエイティース。バービーボーイズや松田聖子など当時の音楽と共に昭和の木造校舎で展開するストーリーは、私世代には懐かしく、若い世代やアメリカ人には新鮮に映るだろう。 相米氏なりの一つの見せ場、後半部分で野球部員の男子が教室で机や椅子を積み上げるシーン。それは映画が何を伝えようとしているのかを我々に考えさせるに十分な、かなり長回しのシーンだった。映画全体の音として、中学生のわちゃわちゃした音や台風や暴風雨の音がメインだが、所々無音になる。この机を積み上げるシーンでも、「台風の音→無音→小鳥のさえずり」が印象的だった。 このような手法は相米氏の特徴なのだろうか? 唯一当時のブームを知っている『セーラー服と機関銃』。中身はさっぱりわからないので、翌日の作品への余韻を残した。 工藤夕貴が注目されるきっかけになった映画。写真提供:ジャパン・ソサエティー 81年『セーラー服と機関銃』 81年の代表作『セーラー服と機関銃』(完璧版)。私は観たのかどうかも思い出せないが、この作品があの時代に世間で騒がれていたのだけは覚えている。 女子高生(今で言うJK)がヤクザの親分になる奇想天外なストーリーで、身勝手な大人社会に向け怒りを放つ。やはり同作でも長回しで音の調和が特徴的なシーンがいくつかあった(ヤクザの子分が薬師丸ひろ子演じる泉をバイクに乗せ家に送るシーン。翌日、子分は無残に殺される) この映画一番の見せ場は後半、泉が機関銃を乱射するところ。現代においては物議を醸すであろうアクションシーンだ。特徴的なサウンドとモーションの中、一世風靡したセリフ「快感(カイ・カン)」が放たれる。またマリリン・モンローよろしく泉がセーラー服にヒール姿で雑踏を歩き、人々に囲まれ、地下から吹き上がる風でスカートがめくれ上がるシーンも印象的。相米氏の思惑をあれこれ妄想する。 劇場に足を運んだほとんどのローカルの人は、この映画のブームも「こ〜のまま〜何時間でも〜抱いていたいけど〜」の薬師丸ひろ子のヒット曲も知らない。何人かに感想を聞いたが、受け止めはさまざまだった。 日本語を流暢に話すアメリカ人に話を聞くと、彼の第一声は「興味深かった」ということだった。一方で話をよく聞くと「難しかった」とも言っていた。「おじん」など死語のせいかと思ったら、そういうことでもないらしい。作品はアメリカ向けに作られたものではないし、当時の状況や文化背景を知らない人にこの映画の真骨頂は少し伝わりづらいのかもしれない。私は「快感」のシーンをもう一度観たかったので大満足。 85年『ラブホテル』 『台風クラブ』と同年の映画だが全く異なり、塗れ場が多め。心から天使になりたい、愛情に飢えた悲しい女性の物語。 ラブホテルの内装が、おそらく今の日本ではあまりないのでは?と思わせる昭和な雰囲気で、面白い壁画を長尺で映し出すカメラワークも興味深し。 最後のシーンでは、主人公・名美が前日に身を委ねた男のアパートを訪ね、男の妻とすれ違う。桜が舞い、大勢の子どもが戯れ…。こちらも特徴的なシーンだった。 グローバス映画シリーズ「相米慎二の世界:不朽の青春」(Rites of Passage: The Films of Shinji Somai)は、まだまだ続く。ジャパン・ソサエティーで5月13日まで開催中。 Globus Series Rites of Passage: The Films of Shinji Somai April 28—May 13, 2023 ジャパン・ソサエティーとは?  ジョシュア・W. ウォーカー ï¼ˆJoshua W. WALKER)理事長 取材記事…

「ない」から生まれるガッツが人を成功へと導く。NYエンタメの会、ファッションデザイナー小西翔さん

Photo:(左から)主催者の中澤さん、この日のゲストの小西さん。 @RESOBOX (c) Kasumi Abe ニューヨークで挑戦する日本人エンターテイナーのために、「NYエンタメの会」という交流会が定期的に持たれています。24日はファッションデザイナー、小西翔さんのトークイベント&交流会でした。 小西さんは東京パラリンピックの開会式の布袋寅泰さんをはじめ、さまざまな有名人の衣装を手がけるファッションデザイナー。 私がこの日聞いた話で一番印象的だったのは、その気概。 まず彼が掴んだチャンスは、体あたりで100通くらいDMを送り、その中から生まれることが多いんだそうです。 また彼が卒業した美大のパーソンズは年間の「学費だけ」で日本円で600万円とも言われています。ニューヨークは物価が高いので家賃や食費、そして生地など材料費も含むと相当なお金が留学に必要です。まさに、お金持ちしか行けない大学ですからご両親に無理と言われたそうですが、そこで諦めず彼はユニクロの奨学金制度を申請し、年間援助「1人枠」に入ることができた。在学中は休みなく学び、熟睡もできないほどだったとか。優秀なので、パリ留学も奨学金制度によるもので、もらった分だけこれからは社会や次の世代に還元をしたいと言っていました。 お金はあればあるほどいいんだろうけど、「ない」ところからガッツで這い上がってきた人はやはり何かが違うなと思いました。 また100通のDMアプローチの話の流れで、アーティストからたまに聞こえてくる人種差別についてどう思うか質問を投げかけてみたら、「差別はあるのかもしれないが自分は言葉の訳を自分なりにいい感じに置き換える」と。つまり受け取る自分次第と仰っていて、そのポジティブな姿勢も印象的でした。 帰りの電車の中でググってみたら、3年前「グッと地球便」というテレビ番組にフィーチャーされていた。↓ ちなみにこの「NYエンタメの会」は2015年に始まって今回は41回目。会の主催者もエンターテイナーで、ニューヨーク在住のダンサー、中澤利彦さん。バスに乗車し観劇する人気のショー「The Ride」などで活躍してきた中澤さんですが、コロナ禍のショーの閉鎖などにぶち当たりました。いよいよThe Rideも今月から再開ということで、さらなる活躍が期待できそうです。 小西さんも言っていたけど、「誰かに強制されているわけではなく、自分がやりたいことができること」は幸せなことですね。それを改めて感じた夜でした。 Text and photo by Kasumi Abe (「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)無断転載禁止

「Seven Sins(七つの大罪)」バーレスク版が復活 NYブルックリンの劇場で

Photo: 悪魔を演じるLEXXE。 (c) Alexander Sargent Seven Sins Company XIV グラフィティやミューロ(壁画)だらけ、これぞ「ブルックリンの今」といったブッシュウィック地区。 突如現れる落書きだらけの怪しげな鉄製の重いドアを開けると、中ではモクモクと炊かれたお香のかほりが充満し、足を踏み入れた瞬間から五感を刺激しまくり。 ここは知る人ぞ知る「Company XIV(カンパニー・エックス・アイ・ヴィー)」の本拠地、Théâtre XIV(シアター・エックス・アイ・ヴィー)。 この日の公演は、昨年に続き3月31日から再演されている『Seven Sins(七つの大罪)』。 キリスト教で7つの罪とされる欲望、暴食、強欲、怠惰、憤怒、嫉妬、傲慢── ã“れらの罪、快楽主義への誘惑、そして聖書で記されているアダムとイブが神の言いつけを破り禁断の果実(りんご)に手を出した罪と罰とともに、繰り広げられるストーリー展開。 バロック様式のバーレスク、バレエ、オペラ、キャバレーなどの要素に加え、サーカス、イリュージョン、ボールダンス、アスレチック・エリアル*などの要素もたっぷり。いつもながらにこの劇団の(演出、音響、衣装、照明も含めた)総合的なステージの芸術性の高さには感心することしきり。 果たしてアダムとイブ、そして悪魔はどうなっていくか?ぜひ劇場で、あなたの目で確かめて! Seven Sins(七つの大罪) 会場:Théâtre XIV(シアター・エックス・アイ・ヴィー) 383 Troutman St, Brooklyn, NY 11237 予約&問い合わせ:Company XIV(カンパニー・エックス・アイ・ヴィー) *アスレチック・エリアル(アリエル・ファブリック)とは? ファブリックを軸に空中を自由自在に舞うパフォーマンス 過去記事:こちらも人気 Text and photo by Kasumi Abe (「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)無断転載禁止

ナチスと戦った不死身の男の物語。映画『SISU』 4/28から全米公開

Photo: (c) SISU この最強の目力よ。 個人的にバイオレンス映画や戦争映画はあまり好きではない。なので期待もほどほどだったが、この作品は自分の想像を超え「息もつかせぬ面白さだった」が率直な感想。 フィンランド映画『SISU(シス)』。 不死身の初老の男、そして土壇場でウーマンパワーを発揮する女たちの物語。 時は1944年の第二次世界大戦中の後期、フィンランドの荒野。 戦争でナチスに家族を殺された孤高の男は、金鉱でついに金塊を見つける。そこにナチスの軍隊が男を無残に殺そうと襲ってくる。だが男はなかなか死なない。 絶体絶命の大ピンチの連続。最後は乗っている飛行機まで墜落の危機に。 ヒヤヒヤしながら「自分だったらこんな状況に追い込まれてどうするかな?」と考えながら観るうちに、映画の世界にどっぷりと引き込まれていった。 陰惨なシーンの連続で、ナチスがどんなことをしてきたかを知りたい人、『ベルセルク』や『北斗の拳』などアクション系が好きな人はおそらくこの映画を気に入るだろう。 戦争映画だが、サウンドや映像美も注目。悲惨で野蛮なシーンの連続に対比したカメラワークと映像の美しさよ。映像を学んでいる学生もこの映画から学ぶことはある。 ニューヨークでの試写会は、マンハッタンのDolby 88で開かれた。野蛮なシーンの連続に声を失う筆者だったが、周りのニューヨーカー(プレスの人たち。映画関係者か?)の「あぁ…」とか「やった!」など思わず声が漏れ(時に笑いも)、そんなリアクションも興味深かった。 日本での公開予定は不明だが、アメリカで好評となれば日本公開も近いのでは。 SISU Only in Theaters on April 28, 2023 主演:ヨルマ・トンミラ(Jorma Tommila) 監督&脚本:ヤルマリ・ヘランダー(Jalmari Helander) プロデューサー:ペトリ・ヨキランタ(Petri Jokiranta) 91分、R指定 Text by Kasumi Abe 無断転載禁止

襲撃失敗…卒業文集まで暴き騒ぎ立てる必要はあるのか?総理襲撃報道 米在住者が抱いた違和感

15日、岸田首相が選挙の応援演説で訪れた和歌山市の漁港で、24歳の木村隆二容疑者が筒状の爆発物を投げ込む事件があった。 アメリカでもこの事件は主要メディアが大きく報じた。安倍元首相が暗殺され1年も経たない中、未遂といえども現役の首相をターゲットにした同類の事件が再び日本で起こったとして、海外に与えた衝撃は大きい。 米在住の筆者は、この事件に関する一連の日本の報道を見て、いくつか違和感を持った。(筆者はいかなる犯罪も擁護するつもりはない。それを前提に本稿を執筆することを伝えておく) 襲撃未遂、動機も不明。なのに騒ぎすぎでは? まず思ったのは「騒ぎすぎ」ではないかということだ。 騒げば騒ぐだけ犯人(及び犯罪者予備軍)の思う壺である。そもそもこの容疑者は襲撃に「失敗」している。爆発物の破片で怪我をした人はいたようだが、ターゲットだったとされる首相にはかすりもしなかった。 木村容疑者は黙秘を続けているから、襲撃の目的が何だったのかは現時点で不明だ。黙秘が続く以上、伝えることはほかにないように思う。それなのに、メディアはまるで凶悪事件のようにいつまでも報じている。 安倍元首相を暗殺した山上徹也被告の模倣犯では、という声も上がっている。しかし、木村容疑者が「弁護士が来てから話す」と口をつぐんでいる以上、また裁判も始まっていないうちに事件の動機や背景は明らかになりようがない。 アメリカではこのような場合、報道はストップする。それなのに日本の一部のメディアは、識者とされる人たち(多くは犯罪専門家ではない)を集め、まるで井戸端会議のように、犯人の動機について「こうではないか、あぁではないか」と想像で語る。 卒業文集や卒アルを報じる必要はあるのか 毎回事件が起こるたびに、一部のメディアは必ずといっていいほど、子ども時代の卒業文集や卒業アルバムを出してくる。 今回の事件でも、容疑者の十数年も前の写真や卒業文集が紹介されていた。筆者が見たネットの動画ニュースは、「中学校の卒業文集で光とブラックホールなどをテーマにした“異質”な文章を綴っていた」と報じた。「容疑者の“異質”さを物語っている文章」というのだ。 人によって感じ方は千差万別だろうが、筆者が見る限りは哲学的なことが書かれており「賢そうでユニーク」、そして子どもの「個性」が表れた文章だと感じた。しかし件のニュースによると、まるで異質な文章を書く子が犯罪者予備軍だと言わんばかりの伝え方に違和感を覚えた。 右向け右の日本の教育では、異質な文章や異質な将来の夢はいけないことなのか。多様化が進むアメリカでは、「変わっていること、異質であること=ユニークな個性」と捉えられているから、抱いた違和感は余計に強かった。 殺人未遂にもなりそうにない容疑者 そもそもこの木村容疑者は、専門家の見方ではせいぜい威力業務妨害の容疑がかかる可能性が高そうだ。つまり軽犯罪であり、罰則は3年以下の懲役または50万円以下の罰金だ。 殺人未遂なら罪としてより重いが、容疑者が使用した爆発物の殺傷能力などからして、殺人未遂罪にはならない可能性があると報じられている。(重ねてだが、まだ容疑者は口を閉ざし、裁判も始まっていないのでどのような罪になるのかまったくわからないのだが) 万引き犯と殺人犯では罪の深さが違うように、当然だがすべての罪にはレベル(等級)がある。例えば、アメリカで起こった殺人について語るならば、加害者が被害者を殺そうと思って計画的に殺したのか、もしくは殺そうと思わなかったが結果的に殺してしまったのかなどによって第1級、第2級、一部の州では第3級などと厳密に分けられる。報道でもそれらの等級は区別されている。 日本のメディアはこの辺の線引きが甘いと、以前より筆者は思ってきた。少し話は飛ぶが、例えば山口県阿武町の役所の4630万円の誤送金を勝手に使い電子計算機使用詐欺罪に問われた被告にしても、名誉毀損罪でドバイに逃亡中という元国会議員の容疑者にしても、日本のメディアはまるで「極悪の犯人」のようにセンセーショナルに、来る日もまた来る日も報じてきた。 普段より乳児の遺棄事件が後を絶たないが、事件が起こるたびに日本のメディアは犯人の女をまるで「極悪非道の殺人犯」のように報じる。重い殺人罪であることは間違いないのだが、女を犯罪者としてメディアで晒し責めるのではなく、どういった背景でそのような悲しい罪を犯すに至ったのか、社会として考え、検証し、再犯を防ぐことに注力することが大切ではないだろうか。 新・要人警護についてアメリカから思うこと 最後に。今回の首相の襲撃未遂事件について、海外の多くの人は「また同様の事件か」「日本の要人警護はどうなっているのか」という疑念を持ったことだろう。日本の緩い要人警護では、今後再び模倣犯が出るのでは、と危惧されている。 報道によると、和歌山市の襲撃現場で採用された警備や警備計画は、安倍氏の銃撃事件をもとに新たに作られた『警護要則』に基づいて立案され、警察庁からも事前に承認を得ていたものだったということだ。しかし、今回は手荷物検査さえ行われていなかったようだ。 アメリカは銃社会だから要人警護もかなり厳重である。 過去記事: 銃社会のアメリカと、日本を比較するなというお咎めの声が聞こえてきそうだが、アメリカの要人警護で持ち込み禁止なのは、なにも銃だけではない。 例えば、金属製のタンブラー(水筒)でさえ、ゲートで囲われた会場の入り口で没収される。我々身分が明らかになっている事前登録のメディアの人間からも、だ。タンブラーは水を入れると重みがあり、強力な凶器になり得る。あらゆることが想定されており、一切抜かりない。 そもそも安倍氏の事件前、山上は岡山での犯行を思いとどまったように、厳重な手荷物検査は犯罪の「抑止」にも大いに効果があることがわかっている。 しかしそれらの教訓が生かされず、今回の遊説先では手荷物検査さえもなかった。要人のみならず聴衆をも守るはずの「最善の警護」だったというが、あれ以上の要人警護は難しく、手荷物検査もしないとなると、あぁそうですかという言葉しか出てこない。アメリカから見ると、このような警護は「いつ再び襲われてもおかしくないし文句も言えない、生ぬるい警護」にしか見えない。 安倍氏暗殺関連 過去記事 Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース 個人「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)無断転載禁止

海外拠点の中国「秘密警察」、日本含め世界で何箇所?── NYで初の逮捕者

中国系アメリカ人の男が、中国の警察拠点をアメリカ、ニューヨークで設立、運営していたとし、17日逮捕された。 逮捕、起訴されたのは、市内在住の50代と60代の米国籍を持つ中国系の男2人だ。 民主活動家などの在米中国人を監視するため、2人は昨年2月よりチャイナタウンにあるビルの3階で、中国の福建省福州市の「警察署」を無許可で開設、運営していたとされる。この拠点は昨年よりF.B.I.(連邦捜査局)の捜査対象となっており、被告はそれに気づき、秋ごろ閉鎖していた。 このビルは6階建てのオフィスビルで、中華系の飲食店やホテルが集まる歓楽街に位置し、辺りは観光客も多く行き交う。 アメリカ国内では、ニューヨークやロサンゼルスをはじめとする数箇所に、中国共産党が違法運営に関与している「警察拠点」があるのは周知されているが、ニューヨークタイムズによるとこのような秘密警察に関連した逮捕、刑事告発は初のケースだ。 2人の被告は、中国政府との共謀による米国在住者への脅迫、証拠隠滅、捜査妨害の容疑で同日起訴されたが、出廷後は釈放されている。 慈善団体を隠れ蓑として活動 この秘密警察はどうやら慈善団体を隠れ蓑として活動していたようだ。 「福建省福州市出身者の交流の場」をミッションに掲げ2013年に立ち上げられた慈善活動の非営利団体、アメリカ・チャングル・アソシエーションNY(America ChangLe Association NY Inc.)が警察拠点になったのは、昨年頭と見られる。実態を知らず、昨年のパーティーにはエリック・アダムス市長も参加していた。その後内部告発により実態が明るみに出て、F.B.I.の捜査対象となっていた。 また、米司法省は2人の被告の起訴同日、中国で活動する人民警察官40人についても、国境を越えた弾圧や嫌がらせで起訴したと発表した。ただしアメリカと中国の間には犯罪人引き渡し条約が締結されていないため、身柄は拘束できていない。 中国の秘密警察署、世界で何箇所?日本は? 前述のニューヨークタイムズなど各紙によると、世界中にある中国の警察業務拠点数は、中国の抑圧を監視するスペインの人権団体、セーフガード・ディフェンダーズ(Safeguard Defenders)が調査している。それによると、ニューヨーク市内には今回閉鎖された場所以外にも別に拠点があるという。また全米にはロサンゼルス、サンフランシスコ、ヒューストンなど少なくとも6都市に広がっている。 世界中では、少なくとも53ヵ国で確認されている。同人権団体は昨年9月、世界中に点在する54拠点の存在を初めて明らかにし、その後さらに48拠点の存在も確認した。例えばトロントに3箇所、パリに2箇所、ロンドンに2箇所、さらにスペイン、イタリア、クロアチア、セルビア、ルーマニアなどといった具合だ。単純計算で世界中に少なくとも102拠点が確認されていることになるが、チャイナタウンがない国はないとも言われている通り、実際にはもっと多そうだ。 中国当局によるこれらの警察拠点は、「外国の市民権を持つ20万人以上の中国系の人々を中国に強制的に帰国させたことに関与した」とされ、「国際法と領土主権の侵害」との非難が国際社会から出ている。アイルランド、カナダ、オランダの当局は、自国にある秘密警察に対して運営停止を求めているという。 日本国内は、FNNプライムオンラインによると、東京の秋葉原と福岡に同様の拠点の存在が確認されており、ほかにも東京の銀座、名古屋、大阪での存在も推察されている。しかし日本では「犯罪事実がなければ検挙できず、慈善組織を隠れ蓑にする手口に打ち手はない」という。よって日本にはない「スパイ防止法の検討がされるべき」と報じられた。 世界に先駆けニューヨークで初の逮捕、刑事告発があったことで、中国が国境を越えてまでも人々を取り締まろうとする横暴なやり方をめぐる世界的な論争は、今後活発化していくことだろう。 Photo: 米での中国の活動関連 過去記事 Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース 個人「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)無断転載禁止