国民的ヒーロー、仮面ライダーがスクリーンに蘇った最新映画『シン・仮面ライダー』。日本で今年3月に公開以降、興行収入が20億2000万円(4月23日時点)を突破し、歴代の『仮面ライダー』映画史上最高記録を樹立したとして話題だ。 海を越え、この新作がいよいよアメリカに上陸する。 5月31日と6月5日の2日間、全米1000館以上の劇場で公開が決まった。どの映画館で上映されるかは、配給会社ファゾム・イベンツのウェブサイトで確認できる。 全米公開に先立ち、ニューヨークのジャパン・ソサエティーは23日にファンを招き、北米プレミア上映会を行った。 映画自体は現代を舞台に、仮面ライダーが「悪」に立ち向かうため、暴力と流血シーンのオンパレードだが、ファンは演技や演出が気に入ったようで、そのようなシーンのたびに「オォ!」と大歓声と時に“笑い”が沸き起こり、盛り上がりを見せた。 両親の仕事の関係で北海道で育ち、現在はニューヨークで暮らすアメリカ人男性は、『仮面ライダー』を観て育った1人。「仮面ライダーは自分にとっての永遠のヒーローだから、この日を楽しみに待っていた」と、上映イベントを待ちきれない様子だった。 会場では撮影ブースも設置され、上映後に仮面ライダーと記念撮影をしたいと列を成すファンの姿が絶えなかった。 『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』『新世紀エヴァンゲリオン』などで海外でも高い評価を得ている庵野秀明氏の脚本・監督作の『シン・仮面ライダー』。当初、全米公開は一夜限りだったが、これらの盛り上がりから急遽さらにもう1日が追加された。アメリカでも日本の国民的ヒーロー、仮面ライダー旋風が巻き起こるだろうか? Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース 個人「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)無断転載禁止
Category: 映画レビュー
NYの観光名所ハイラインが“映画館”に(5/24まで開催中)
ヨーロッパで活動するアーティスト、ジャスミナ・シビック(Jasmina Cibic)氏がニューヨークの「ハイライン」で16日、トークイベントを行なった。 イベントでは同氏による、’20世紀の東ヨーロッパ諸国によるダンスや音楽などの文化を利用した「ソフトパワー」の実例調査の意見交換と、同氏作の映画『ザ・ギフト』を上映した。 スロベニア出身のシビック氏は映画、彫刻、パフォーマンス、インスタレーションを中心に現在ロンドンを中心に活動するアーティスト。 人気の観光名所でもある「ハイライン」では、シビック氏による、東欧の政治に関連した芸術や文化が表れた3本の映画(『ザ・パビリオン』(2015)、『ナダ: アクトII (2017)』(2017)、『ステート・オブ・イルージョン』(2018))が上映中だ。 このトークイベントは個展「ホールズ・オブ・パワー(Halls of Power)」に関連して行われた。 聞き手は’ハイラインアート(High Line Art )のキュレーター、 メラニー・クレス(Melanie Kress)氏。 「ホールズ・オブ・パワー(Halls of Power)」イベントは、今年3月16日から5月24日まで。 Halls of Power: Artist talk with Jasmina Cibic and Melanie Kress @The High Line 14th Street Passage 14th Street, 10th Avenue, New York, NY 10014 Text and photos by Kasumi Abe (「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)無断転載禁止
80年代ヒット映画『セーラー服と機関銃』はアメリカ人にどう映った?(相米慎二作品NYで上映中)
2001年に53歳で亡くなった相米慎二監督の軌跡がアメリカ・ニューヨークで蘇っている。 日本文化を紹介するジャパン・ソサエティーで、グローバス映画シリーズ「相米慎二の世界:不朽の青春」(Rites of Passage: The Films of Shinji Somai)と題した相米氏の映画祭が、5月13日まで開催中。 厳しい演出で役者の持つ力を発揮させることに長けたと評される相米氏。薬師丸ひろ子、永瀬正敏、河合美智子、工藤夕貴、牧瀬里穂など多くの才能を発掘してきた。 その中でも特筆すべきは、81年の薬師丸ひろ子主演の大ヒット作『セーラー服と機関銃』だろう。同作(完璧版)がニューヨークで上映された4月29日、チケットは売り切れ、会場は満員御礼の人気ぶりだった。 同作は女子高生(今で言うJK)の泉がヤクザの親分になる奇想天外なストーリーで、身勝手な大人社会に放たれた怒りが表現されている。 一番の見せ場は後半、泉が機関銃を乱射する、あの時代を生きた者なら誰もが知るシーン。時が止まったかのような特徴的なサウンドとモーションの中、一世を風靡したセリフ「快感(カイ・カン)」が放たれる。現代においては物議を醸すであろう過激なアクションシーンは当時の日本でも大きな話題となった。 またマリリン・モンローよろしく泉がセーラー服にヒール姿で雑踏を歩き、人々に囲まれ、地下から吹き上がる風でスカートがめくれ上がるシーンも印象的だった。相米氏が何を伝えたかったのか、その思惑をあれこれ妄想させる。 劇場に足を運んだほとんどのローカルの人は、相米氏や薬師丸氏の名声も知らなければ、この映画があの時代の日本人の心を引きつけたことも、さらには「こ〜のまま〜何時間でも〜抱いていたいけど〜」*のメロディも知らない。そんな中、何人かに感想を聞いたら、受け止めはさまざまだった。 旅行をしたことがあったとしても、ケータイもネットもない時代の日本の風景は、さぞや新鮮に映っただろう。何人かは「よかった」「興味深い映画だった」と評価した。「機関銃のシーンは受け止めが難しい」という声もあった。東京に6年住み日本語を流暢に話すアメリカ人も第一声で「興味深かった」と言った。その一方話をよく聞くと「コンテキストで理解するのが難しかった」とも。「おじん」など死語のせいかと思いきや、言葉の問題ではないらしい。 「80年代の日本を知らないので、話の流れのツァイトガイスト(その時代の思想や問題などから考えること)が難しく、監督が言わんとしていることがわからなかった」 作品はアメリカ向けに作られたものではないし、当時の状況や文化背景を知らないとこの映画の真骨頂はやや伝わりづらいのかもしれない。ということは、若い世代の日本人が観ても同様の感想になるのだろうか?(当時を知る筆者はヒット曲が懐かしく、また「快感ブーム」になったあのシーンを見届けられただけで満足だったが) 相米氏の没後20年となった2021年には特集上映イベントが組まれ、リアルタイムで相米作品を知らない世代の若者が劇場に詰めかけ、人気が再燃したと伝えられている。主催のジャパン・ソサエティーによると、日本国外のファンの間でも相米作品は「再び人気となり、作品について再評価がされている」という。 今回の期間中は、『セーラー服と機関銃』の完璧版と初公開版、『台風クラブ』『ラブホテル』『ションベン・ライダー』『魚影の群れ』『東京上空いらっしゃいませ』『光る女』がラインナップされている。5月5日には『光る女』に出演したMonday満ちる(秋吉満ちる)氏も、上映会に特別ゲストとして登場する予定だ。 注: * 1981年の大ヒット曲。曲名『セーラー服と機関銃』、歌手:薬師丸ひろ子、作詞:来生えつこ、作曲:来生たかお Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース 個人「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)無断転載禁止
『セーラー服と機関銃』NYで上映:相米慎二映画祭開催中。ジャパン・ソサエティーで
Photo: グローバス映画シリーズ「相米慎二の世界:不朽の青春」@ Japan Society (c) Kasumi Abe 映画監督、相米慎二(そうまいしんじ)氏の映画祭がニューヨークのジャパン・ソサエティーで開催中。 28日のオープニングイベントには、80年代〜1990年代の相米作品を知る世代のみならず、アメリカのローカルの幅広い映画ファン、日本文化ファンが一堂に会した。 言葉のチョイスとして今では誰も使わない死語や山の手言葉も散りばめられ、時代の移り変わりを感じる。また、この時代の日本映画はおそらく今の時代であればNGな表現も大胆に取り入れられている。ネットもケータイもない時代だが、逆に表現豊かな良い時代でもあったなと思いながら鑑賞した。 ここでは3作品をピックアップ(以下、多少のネタバレ含む) 85年『台風クラブ』 初日の『台風クラブ』は、思春期の中学生を題材にした85年の映画。 時はエイティース。バービーボーイズや松田聖子など当時の音楽と共に昭和の木造校舎で展開するストーリーは、私世代には懐かしく、若い世代やアメリカ人には新鮮に映るだろう。 相米氏なりの一つの見せ場、後半部分で野球部員の男子が教室で机や椅子を積み上げるシーン。それは映画が何を伝えようとしているのかを我々に考えさせるに十分な、かなり長回しのシーンだった。映画全体の音として、中学生のわちゃわちゃした音や台風や暴風雨の音がメインだが、所々無音になる。この机を積み上げるシーンでも、「台風の音→無音→小鳥のさえずり」が印象的だった。 このような手法は相米氏の特徴なのだろうか? 唯一当時のブームを知っている『セーラー服と機関銃』。中身はさっぱりわからないので、翌日の作品への余韻を残した。 工藤夕貴が注目されるきっかけになった映画。写真提供:ジャパン・ソサエティー 81年『セーラー服と機関銃』 81年の代表作『セーラー服と機関銃』(完璧版)。私は観たのかどうかも思い出せないが、この作品があの時代に世間で騒がれていたのだけは覚えている。 女子高生(今で言うJK)がヤクザの親分になる奇想天外なストーリーで、身勝手な大人社会に向け怒りを放つ。やはり同作でも長回しで音の調和が特徴的なシーンがいくつかあった(ヤクザの子分が薬師丸ひろ子演じる泉をバイクに乗せ家に送るシーン。翌日、子分は無残に殺される) この映画一番の見せ場は後半、泉が機関銃を乱射するところ。現代においては物議を醸すであろうアクションシーンだ。特徴的なサウンドとモーションの中、一世風靡したセリフ「快感(カイ・カン)」が放たれる。またマリリン・モンローよろしく泉がセーラー服にヒール姿で雑踏を歩き、人々に囲まれ、地下から吹き上がる風でスカートがめくれ上がるシーンも印象的。相米氏の思惑をあれこれ妄想する。 劇場に足を運んだほとんどのローカルの人は、この映画のブームも「こ〜のまま〜何時間でも〜抱いていたいけど〜」の薬師丸ひろ子のヒット曲も知らない。何人かに感想を聞いたが、受け止めはさまざまだった。 日本語を流暢に話すアメリカ人に話を聞くと、彼の第一声は「興味深かった」ということだった。一方で話をよく聞くと「難しかった」とも言っていた。「おじん」など死語のせいかと思ったら、そういうことでもないらしい。作品はアメリカ向けに作られたものではないし、当時の状況や文化背景を知らない人にこの映画の真骨頂は少し伝わりづらいのかもしれない。私は「快感」のシーンをもう一度観たかったので大満足。 85年『ラブホテル』 『台風クラブ』と同年の映画だが全く異なり、塗れ場が多め。心から天使になりたい、愛情に飢えた悲しい女性の物語。 ラブホテルの内装が、おそらく今の日本ではあまりないのでは?と思わせる昭和な雰囲気で、面白い壁画を長尺で映し出すカメラワークも興味深し。 最後のシーンでは、主人公・名美が前日に身を委ねた男のアパートを訪ね、男の妻とすれ違う。桜が舞い、大勢の子どもが戯れ…。こちらも特徴的なシーンだった。 グローバス映画シリーズ「相米慎二の世界:不朽の青春」(Rites of Passage: The Films of Shinji Somai)は、まだまだ続く。ジャパン・ソサエティーで5月13日まで開催中。 Globus Series Rites of Passage: The Films of Shinji Somai April 28—May 13, 2023 ジャパン・ソサエティーとは? ジョシュア・W. ウォーカー (Joshua W. WALKER)理事長 取材記事…
ナチスと戦った不死身の男の物語。映画『SISU』 4/28から全米公開
Photo: (c) SISU この最強の目力よ。 個人的にバイオレンス映画や戦争映画はあまり好きではない。なので期待もほどほどだったが、この作品は自分の想像を超え「息もつかせぬ面白さだった」が率直な感想。 フィンランド映画『SISU(シス)』。 不死身の初老の男、そして土壇場でウーマンパワーを発揮する女たちの物語。 時は1944年の第二次世界大戦中の後期、フィンランドの荒野。 戦争でナチスに家族を殺された孤高の男は、金鉱でついに金塊を見つける。そこにナチスの軍隊が男を無残に殺そうと襲ってくる。だが男はなかなか死なない。 絶体絶命の大ピンチの連続。最後は乗っている飛行機まで墜落の危機に。 ヒヤヒヤしながら「自分だったらこんな状況に追い込まれてどうするかな?」と考えながら観るうちに、映画の世界にどっぷりと引き込まれていった。 陰惨なシーンの連続で、ナチスがどんなことをしてきたかを知りたい人、『ベルセルク』や『北斗の拳』などアクション系が好きな人はおそらくこの映画を気に入るだろう。 戦争映画だが、サウンドや映像美も注目。悲惨で野蛮なシーンの連続に対比したカメラワークと映像の美しさよ。映像を学んでいる学生もこの映画から学ぶことはある。 ニューヨークでの試写会は、マンハッタンのDolby 88で開かれた。野蛮なシーンの連続に声を失う筆者だったが、周りのニューヨーカー(プレスの人たち。映画関係者か?)の「あぁ…」とか「やった!」など思わず声が漏れ(時に笑いも)、そんなリアクションも興味深かった。 日本での公開予定は不明だが、アメリカで好評となれば日本公開も近いのでは。 SISU Only in Theaters on April 28, 2023 主演:ヨルマ・トンミラ(Jorma Tommila) 監督&脚本:ヤルマリ・ヘランダー(Jalmari Helander) プロデューサー:ペトリ・ヨキランタ(Petri Jokiranta) 91分、R指定 Text by Kasumi Abe 無断転載禁止
【レビュー】超高齢化の日本に訴えかける。58年の映画『楢山節考』NYで
Photo: © 1958 Shochiku ニューヨークで日本の文化を紹介する「ジャパンソサエティ」では月例で、日本の名作が上映されています。今月の映画は、木下恵介監督の『楢山節考(ならやまぶしこう)』(1958年、原作:深沢七郎)。 同作は、食料不足が続く貧しい村で70歳に達した老人を楢山に遺棄する恐ろしい因習を題材としたもの。慣わしに従い年老いた母を背板に乗せ真冬の楢山へ捨てに行きます。 母はこの年で健康な歯を恥じ岩に打ち付け自傷。山に行きたくないと拒否する村人がいる中、母は自ら進んで「楢山まいり」の日を早めたいと言います。無言で母を背負い山に登っていく、心優しい一人息子。神様がいると言われる山の頂上で見た実際の光景は・・・。 両親が高齢となった人、また自身も数十年後にそのような年代になる人には切ないシーンでした。そして若い世代にとっても他人ごとではありません。人は必ず老い死ぬのですから。 現代日本では人口減少と超高齢社会が深刻化する中、これといった解決策は見出されておらず、対応策について意見が分かれています。しかしいかなる場合であってもネット上で推奨、炎上した集団自決のような結末はあってはなりません。また社会が高齢者をそのような思想に追い込んだり、生きていて恥に思うような風潮は決して許されません。 58年の映画でしたが、現代の日本人にも大いに関わってくる題材でした。 上映室は日本人よりローカルの人が多かったです。所々感嘆の声が上がっていました。アメリカはどのようにこの映画を受け止めたでしょうか。 Text by Kasumi Abe (「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)無断転載禁止