新型コロナウイルスに関するNY最新現地事情まとめ(3)ロックダウンまでのタイムライン篇

日本でも緊急事態宣言が出され、都市封鎖かと心配されている方が多いと思います。ニューヨークでの緊急事態宣言が発令されてからロックダウン(外出制限、ニューヨークでは – ON PAUSE – ポーズ=静止という言葉が使われています)までのタイムラインを、ここでまとめてみました。 3月1日 NY州で初の新型コロナウイルス感染者を確認 (筆者が、街中のマスク着用者を初めて見かけたのは1月末だが、3月上旬の時点でマスク着用者は全体の0.5~1%くらい) 3月7日 NY州知事が緊急事態宣言を発令 3月13日 5pm 市内の全ブロードウェイが閉鎖 収容人数500人以上の集会禁止 (この前後から、スーパーでは水やトイレットペーパーなどが売り切れ) 3月16日 8pm バー、クラブ、映画館、カジノ、スポーツジムなどが閉店 レストランは持ち帰りとデリバリーのみ許可 500人以下の場合は収容率50%以下に 職場で働く人の数を50%以下に削減 この週から、学校、図書館、博物館、美術館、デパート、ショップなども次々とクローズ。また職場で在宅勤務が増え始める。 (筆者の感覚で、マスク着用者は5%くらいに増えたことを実感) 3月19日 8pm ショッピングモール、遊園地、ボウリング場などがクローズ 職場で働く人の数を25%以下への削減を要請 3月21日 8pm 美容室、理髪店、ネイルサロン、タトゥーパーラーが閉店 (筆者の感覚で、マスク着用者は10%以上に増えたことを実感) 3月22日 8pm エッセンシャルサービス* (生活に必要なもの)以外、すべて閉鎖。人々は自宅待機、在宅勤務へ (* 医療従事者、救急隊員や警察、消防隊、スーパー、デリ、薬局、公共交通機関、郵便局、銀行、電話、電気、水道、ガス、WIFIなど) [All photos and video by Kasumi Abe] All images and text are copyrighted. 本稿はYahoo! Japan News個人からの転載。無断転載禁止

新型コロナで死者千人超えでも希望を捨てない人々(ニューヨーク今日の風景)

ニューヨーカーの希望の光 「我々が必要としていたものが今、ここに到着した。我々の仲間、海軍兵士によるこの病院船は、ただベッドや医療物資を届けるためだけにやって来たのではない。これは私たちの希望(Hope)なのだ」 現地時間3月30日午前、アメリカ海軍の病院船「USNSコンフォート」(以下コンフォート)がニューヨーク市マンハッタン区のピア90に到着し、ビル・デブラシオ市長はメディア向けのプレスカンファレンスで、力強くこのように語った。 ニューヨーク州内ではこの日、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の感染者が6万6497人、死者が1218人(前日965人)となった。コンフォートはこれらの事態を受け、州内にある医療施設のキャパシティを増やすために派遣された。 船内には1000床のベッド、12の手術室、80の集中治療室、医療ラボなどを備えており、ここでは新型コロナウイルス感染症以外の救急患者の治療が行われる。医療関係者1200人が任務にあたる。 Updated April 6: ニュージャージー州も含む新型コロナ患者の受け入れに転換しました(最大500床)。 コンフォートの船内の写真 バズフィードニュース コンフォートは通常、国外でのハリケーンや大地震の救済に使われているもので、ニューヨークにやって来たのは2001年の同時多発テロ以来だ。 実はこの日、ほかにジャビッツセンター(Javits Center)が仮設病棟としてオープンした。ジャビッツセンターは平常時、コミコンやNY NOWなどが行われる大型展示会場だ。ここには2500のベッドが設置され、新型コロナ感染症以外の患者が搬送される。 Updated April 3: 新型コロナ患者の受け入れに転換しました。 州内ではほかにも、大学のキャンパスやセントラルパークの屋外テントを仮設病棟とする計画が急ピッチで進められている。 コンフォートを一目見ようと多くの人々が集まったが、ソーシャル・ディスタンシング(社会的距離)の確保がされておらず、警官が出てくる一幕も。 取材帰りの非現実的な光景 in タイムズスクエア ニューヨークでは今、エッセンシャルワーカー(医療現場や交通、スーパーや薬局などで働く人々)以外、自宅待機が求められている。筆者は前夜遅く、コンフォートのプレス用カンファレンスの知らせを急遽受け取り、この日約2週間ぶりに取材に出かけた。 カンファレンス終了後、地下鉄へ向かう途中、ニューヨークの中心地、タイムズスクエアがある。 いつもは全米そして世界中からやって来た観光客でごった返し、なかなか前に進めないくらい人が多いタイムズスクエアが、新型コロナの影響でガランとしている。 どの店もシャッターが降り、店内が暗い。人もまばら。いつもならうるさいほどのクラクション音もない。 感謝祭やクリスマスなど一連のホリデーがすべて終わり、年末最後の大騒ぎをする大晦日の翌朝、つまり静まり返った元旦のようだ。 この街とは1990年代からの付き合いだが、こんなに寂しいニューヨークを初めて見た。 駅に向かって歩いていると、タイムズスクエアの顔なじみの人と遭遇した。 年中パンツ一丁でギターを弾くネイキッド・カウボーイこと、パフォーマーのロバート・バーク氏だ。筆者は15年ほど前、彼に同じ場所でインタビューをしたことがある。まさかこんな誰もいない日にも彼がここに出没しているとは思わなかった(しかも気温は10℃ちょっと。まだコートが必要) 今日だけいつもと違うのは、オリジナルマスクを着けていることだ。 久しぶりに日本語の歌を目の前で歌ってくれたので、チップを出そうとしたところ、ロバートが「いらない、いらない」と言う。「なぜ?」と聞くと「今はソーシャル・ディスタンシングが叫ばれているからいらない。それより経済が早く回復してもらうことを願っている」とクールに言い放ち、次の通行人のもとへと去って行った。 さらに駅に向かって歩を進めると、今度はさっきまでシーンとしていたのに、突然大音量の音楽が聞こえてきた。派手な三輪のスポーツカー、スリングショットが信号待ちをしている。音楽はそのスピーカーからだ。 曲は、フランク・シナトラの『ニューヨーク・ニューヨーク』。 田舎からやって来た男性がこの街で一旗揚げるぞ、と意気込む希望の曲だ。この曲はニューヨークでは、イベントやエンターテインメントが終わった後、成功を記念してかかるお決まりで、毎年大晦日のタイムズスクエアのカウントダウン後の定番曲でもある。 筆者が最後にこれを聴いたのは、ちょうど同じ場所で2019年の大晦日のカウントダウンだ。 このスリングショットを走らせるのは、ニューヨーク州ロングアイランドから運転してきたマットさん。景気付けにやって来たようだ。 人のいないタイムズスクエアで、偶然出くわした『ニューヨーク・ニューヨーク』。 たった2、3人の通行人と共に聴く。 映画みたいなことが、いいことも悪いことも、 今ここニューヨークで起こっている。 [All photos and video by Kasumi Abe] All images and text are copyrighted. 本稿はYahoo! Japan News個人からの転載。無断転載禁止

新型コロナウイルスに関するNY最新現地事情まとめ(2)ニューヨークにアジア人差別はある?篇

旅行、もしくは仕事や留学でニューヨークを訪れる方も多いと思います。いくつか関連記事を書いているので、ここでまとめたいと思います。 第2回目は、日本人として気になる「アジア人への差別はありますか?」について。 これはコロナ以前から、日本から視察や観光で来られた方にたまに受ける質問でした。 私の答えは「人の心の中までは知る由がありませんが、実際に私が直接感じたあからさまな差別はニューヨークでは特に思い出しません」ということです。 私が住むニューヨークとは違いますが、ロンドンやパリではびっくりする出来事が、たったの数日の滞在でいくつかありました。 例えば、2018年に訪れたロンドンのハイエンドなアフタヌーンティの店で、テーブル待ちをしていた時のこと。謂れ無き理由で白人の年配のカップルに待合室の椅子を強制的に譲るように、スタッフに言われてびっくりしたことがありました。ニューヨークでは感じたことがない経験でした。この時に移民の国と、王族・貴族の由緒ある国でのアジア人(観光客)の扱い方の違いを身近に感じました。 フランス、パリでもちょっとした意地悪をお店のスタッフにされたことがあります。 ただ、ロンドンでもパリでも差別をする人は「一部の心ない人」だと思うので、私はそれくらいでその国の人々を嫌いになったりはしません。ただ「この国ではそういうことが起こるんだ…」っていう程度の感想です。 またアメリカでも15年以上前のことになりますが、中西部でこんなことがありました。 その街では白人がほとんどで、アジア人は滅多に見かけません。友人(白人)とダイナーでご飯を食べていた時、隣のテーブルに2人組の女性が座りました。うち1人が私をチラッと見て「そう言えば、私最近、中国人に仕事を取られたのよねぇ〜」と話しはじめました。私を中国人と思って言った言葉であることは間違いありませんでした。 18年間、海外に住んでいますが、今思い出す差別はこれくらいです。 (細かいこと言えば〜の対応が悪かった、などはありますが、社会的立場の高い教養のある方から差別や失礼な態度を取られたことは一度もありません) 今回、新型コロナウイルスが中国から発生したということで、私もアジア人として嫌がらせを受けたりしないかと初めのころは身構えていたのですが、特に何も起こっていません。 ただ1月末に1度だけ、ちょっと嫌な気持ちになったことはあります。 電車に乗っていた時、向かいに東欧系の言葉を話す白人の女性2人が座っていました。チャイナタウンの駅で中国系の女性が乗車し2人の女性の隣に座った時、そのうち1人が笑いながらタートルネックを鼻の上まで引き上げました。私はその瞬間、眠ったふりをしました。見ていられなかったのです。しばらくするとタートルネックは降ろされていたのでほんの冗談のつもりだったとは思うのですが、同じアジア人としてまったく良い気はしませんでした。 でもこの出来事も後でよく考えてみると、差別をしたのは「ニューヨークの人ではない」というのがポイントかと思います。ニューヨーカー(ここに長く住む人々を含む)は、多様性の中で生きているので「普通の人」は差別などしないです。 それでもたまに差別や憎悪犯罪が起こるとしたら、それはもう「事故」にあったようなものでしょう。 (以下は、Tabizineに寄稿した記事の一部を抜粋します) ヨーロッパなどでは言われなき差別をアジア人が被ったというような話がよく聞こえてきます。 ニューヨークは移民の街であること、アジア人がもとから多いことなどから、私自身も、周りの友人も特に目立って大きな差別を受けていません。 クオモ知事も、このようにツイッターで発信しています。 「ニューヨークの街の強さは多様性だ。ここにはヘイトなんて起こるスペースは1mmもない」#NoHateInOurState マスクをしていることで「病気を移さないで」とからかわれたことがある人もたまにいるようなので、病気でなければニューヨークではマスクを着けない方がいいでしょう。 正気でない人が、アジア人に向かって嫌がらせをしている様子がたまにソーシャルネットワークなどに上がってきますが、そのような正気でない人はきっと全人口の一部だと思いますので、それを気にしてニューヨーク行きを諦めるのはもったいないです。 【新型コロナウイルス:速報】感染者急増のニューヨーク最新現地事情と渡航情報 3.11.2020 Coronavirus is NO excuse for racism. This assault is disgusting & I am directing the State Police Hate Crimes Task Force to assist in the investigation to make sure…

新型コロナウイルスに関するNY最新現地事情まとめ(1)マスク篇

旅行、もしくは仕事や留学でニューヨークを訪れる方も多いと思います。いくつか関連記事を書いているので、ここでまとめたいと思います。 第1回目は日本でも品切れの「マスク」事情について。   2月3日(月)の週になって、ドラッグストアにマスクを買いに行ってみたところ、見事に売り切れ状態でした。 マスク姿は「ウイルス持ち」「病気」のようなイメージを人々に与えかねないため、滞在中に予防用マスクをする際は十分気をつけましょう。 【新型コロナウイルス:速報】ニューヨークの最新現地事情とアメリカ人のウイルス防止対策 (2.8.2020) これについては、マスク姿のアジア人女性と男性が地下鉄の駅でいざこざになり、女性が男性に暴行されているところがSNS上で拡散され話題になりました。2人の間に何が起こったかは知る由がありませんが、中にはピリピリしている人もいるのは間違いないでしょう。 また私の知り合いの女性も先日地下鉄の駅で、防止用のためにマスクをしていたところ、通りすがりの女性に「病気を移さないで」と言われたそうです…。   街中や電車内でマスクをしている人はほんの一部(筆者の感覚では0.5〜1%ほどの割合)なので、おそらく転売業者などが買い占めているか、華僑が自身で使用したり、中国の家族や親戚に送るなどしているのかもしれない。 価格はやや高いが(2枚で5ドル=約500円)、路上などでは現在このように販売されていたりもする。 NYで初の感染者、全米で死者6人 パニックで水や米の買い占め騒動に? (3.3.2020) マスク不足と言っても、あるところにはあるんですよね。(箱から出されたマスクの衛生面が気になるところですが…) ちなみに私は、2月上旬に薬局でスタッフに尋ねたところ、始めは「売り切れ」と言われたのですが、後で倉庫の隅に残っていた「最後の1個が残っていた」と持って来てもらいゲットでました(上写真)。 アメリカ国内には需要に応じて、4,300万枚のマスクの供給準備があり、今後もさらに製造、入手可能の予定。 (その後、マイク・ペンス副大統領が「医療関係者や感染の疑いがある人以外は、マスク着用の必要性はまったくない」とフォローし釘を刺した) 新型コロナで初の死者も専門家により封じ込めに自信 「パニックになることは何もない」トランプ大統領 (3.1.2020) CDC(アメリカ疾病管理予防センター)では「マスクは健康な人には必要ない」と発表されています。そういう事情で、感染者が出たニューヨークでもいまだにマスク率は低いです。私もまだ、マスクは着けたことはありません。 以上、旅行や滞在の際の参考になれば幸いです。 (Photos and text by Kasumi Abe) 無断転載禁止

052 近隣クリエイターが夜な夜な集まる、クラフトカクテル・バー 「Yours Sincerely」(NYブルックリン)

知り合いのクリエーターが「ブッシュウィックに、近隣のアーティストなどがよく集まるおしゃれなカクテルバーがある」と教えてくれました。聞けばただのバーではなさそうです。真っ暗な店内に引き込まれるように入りました。 タップは全部で31種類 店の看板には昔の趣のあるコカコーラ・マークがあり、一見「これ何の店?」と思いました。「昔キャンディーストアだったのを、前のオーナーがAirbnbとして使い、2015年大みそかに今の形態のバーになりました」と話すのは、店の代表マークさん。 バーカウンターにズラリと並ぶタップから、「Yours Sincerely」がただのカクテルバーでないことが分かります。聞けばここのカクテルはすべて「ドラフト」だそう。全部で31種類で、中にはクラフトビール、ウイスキー、赤&白ワイン、手作りソーダも。タップワインは飲んだことがあるけど、タップカクテルは経験なし。早速いただきました。 まずはホワイトラム、ライム、シンプルシロップなどで作られたダイキリの「Lab Rat」から(10ドル、毎日5〜8pmはハッピーアワーで5ドル)。フレッシュで飲みやすく、喉をリフレッシュしてくれます。軽量のために使われているガラス製ビーカーもおしゃれ! 冬季は温かいカクテルも飲みたくなります。「Re-Animator」(11ドル)はイタリアの食前酒カルダマロに、ビターリキュールのブランカメンタ、コーヒー豆が入っていて、おなかの中から体を温めてくれます。 隠れメニューも どれを注文していいか分からない場合も心配ご無用。メニューには「デシション・メーカー」(判断決定表)の図解があります。 例えば、軽くリフレッシングしたいか、思いっきり飲みたい気分か、好みの味は甘めかドライか、ハーブが効いたものか、トロピカルか…。きっと自分好みの味にたどり着けます。ぜひお試しを。 またあまり知られていませんが、メニューにブラックライトを当てると、隠れメニューも浮き出してきます。遊びゴコロいっぱいのバーです。 フードはないけど、隣のレストランからBYOB(持ち込み)してよいとのこと。良心的なのもうれしいです。 [by Kasumi Abe]All images and text are copyrighted. 本稿はWeekly NY Japionのコラム 、安部かすみ(Brooklyn本著者)が案内する「古くて新しい、とっておきのブルックリンへ」からの転載。無断転載禁止

アート発信地をチェルシーからハーレムにする男 WhiteBox, ニューヨーク

NYのハーレムで行われた茶会 日本の茶会が、ハーレムのアートスペースで開催されると聞いて驚いた。 ハーレムと言っても最近キラキラした大型商業施設が立ち並ぶ都会の方ではなく、東側の「スパニッシュハーレム」だ。スパニッシュハーレムと言えば、ニューヨークにいる(いた)人はわかるが、治安が良くない地区としてのイメージが今でもある。そこで本格的な茶会が今晩行われるという。 何だか刑務所?のような大きくて重い鉄格子をゆっくりと開ける。 だだっ広いアートスペースが目の前いっぱいに広がった。 冷たい無機質な床に、温かみのある手触りのよい畳が敷かれている。茶の講師が座り、彼女を取り囲むように3人が畳に、別の3人が椅子に座り、お点前をちょうだいしていた。(そのほかにも多くの人が立って見物) 静寂の中、きちんと正座した女の子もいて可愛い! ここにいる誰もが茶の世界に敬意を表し、中には熱心に質問をする人も。ハーレムがこんなことになっているとは誰が想像したか。 場所はWhiteBox Harlem(ホワイトボックス・ハーレム)。2月1日から29日まで「Painter was called outlaw」というテーマで行われている展示会の中での1コマだ。 ここで日本の芸術を中心にキュレーションを行なっている佐藤恭子さんによると、期間中、日本人芸術家(長谷川利行、松本竣介、麻生三郎、宮崎進)の戦時中に日の目を見ることがなかった作品を展示し、その一環として茶会イベントを催したそう。これらの芸術家は、昔の日本では「アウトロー」(無法者)扱いされてきた。皆他界されているが、自分たちの作品が時を経て外国でお披露目とは、きっと誇らしげに思われていることだろう。 最近私は茶会のご縁が多い。この日も改めて茶やアートを含む日本文化の奥深さは、アメリカ人の興味を引くものだと実感した。 NYマンハッタンの中心地にあるお茶室と、そこで定期開催される本格茶会【ニューヨーク】 あるアートの専門家との興味深い会話 さて茶会が終わり、せっかくなので展示されているアート作品を見て帰ることに。 そこに来ていた、ニューヨークのブロンクス区でアート関連の仕事を長年しているという年配のルイスさんと、ある作品の前で立ち話になった。 ルイスさんと作品の前でお互いが感想を言い合ったのだが、会話の中で政治という意味のpoliticsという言葉が彼の口から幾度となく出てきた。私はこのアートの場でまったく予期しなかった言葉が出てきたので一瞬思考が止まり、彼が何の話をしているのか混乱するほどだった。 しかし彼はアートの長年の専門家だ。彼の言っていることは、おそらく「正しい」のだろう。だが私は昔から思ってもみないことを言ったり同意するのが苦手である。正直に理解できていないことを恐る恐る伝えてみた。 そうしたらルイスさん、「この前〜〜で出会った女性が」とさらに混乱する話をし始めるではないか。私の脳内はさらに「???」。ついに「話の腰を折るようで申し訳ありませんが、ちょっと話に着いていけていないかもです…」と伝えたところ、ルイスさんは「私はあなたから今、違う見方を学んでいます。これがアートの面白いところです」と言った。 同じ1つのオブジェクトを見ても、それまで生きてきた経験や知識をもとに、ある人は「政治的」だと感じ、またある人はまったく別のことを感じる。彼が以前出会った女性との会話は、それを彼に気づかせてくれた最初の出来事として、いつもこのようなシチュエーションで思い出すそうだ。 ルイスさんとの会話は私にも学びをもたらしてくれる興味深いものだった。わからないことはわからないと正直に伝える大切さ、そして正解というものがないアートの奥深さや面白さを改めて気づかせてくれた。 ハーレムを次のチェルシーにする男 ここにはもう1人興味深い人物がいた。 このスペースのオーナーで、スペイン出身のファン・プンテス(Juan Puntes)さんだ。彼はその昔、現代アートの発信地、チェルシーにWhiteboxを構えていた。そこが飽和状態になりローワーイーストサイドにスペースを移し、1年前にこのスパニッシュハーレムに引っ越してきた。 聞けば、このだだっ広いスペースは以前は消防署で、大昔は馬車の倉庫だったそう。道理でだだっ広く、ドアも重く、室内奥にも大きな倉庫っぽいドア跡が残っているわけだ。 実はこのWhiteBox Harlemの隣も、別のアートスペースなんだとか。 チェルシーに未だ集まる多くのギャラリーの賃貸契約の更新の時期が今から約10年前で、それ以降はローワーマンハッタンやブルックリンが次のチェルシーになるだろうと言われて久しい。「なぜこのギャラリーはブルックリンを選ばなかったのか?」と聞くと、彼はこのように答えた。 「ブルックリンは若すぎる。もっと成熟した市場が欲しかった。まさかハーレムのしかもスパニッシュハーレムとは、誰もが驚くけど、次(のムーブメント)はここさ」 「ついでに言っておくと」と彼は続ける。 「ここはギャラリーではなく、オルタナティブ(代替的)なアートボックスと僕らは呼んでいる」とあえて、ギャラリーという言葉を否定した。 NPO形態で運営し、ニューヨークの通常のギャラリーのように作品を販売しているわけではなく、grant(企業などからの補助金)で賄っていると言う。 地下フロアでは2月8日から3月1日まで、中国・武漢在住のアーティスト、ケ・ミン(Ke Ming)さんによる作品展もちょうど行われている。 すごいタイミングだが、これはまったくの「偶然」だそうだ。新型コロナウイルス騒動から随分と前に企画されたもので、そして残念なことに、ケさんは今回の騒動で来米できず、展示会に来れなくなってしまった。(ファンさんは武漢の人々を助けるべく、期間中は会場で募金活動も行なっている) ここではほかにも、中国北部出身のアーティストで来月この地下で自身の展覧会をするタンさんや、2ヵ月前にニューヨークに活動拠点を移したばかりの芸術家、野村在さん、そして千住博さんのところで10年ほど働いていたという原田隆志さんらにもお会いした。 アートはまったく専門外で普段はあまりご縁がないが、たまにはそういう所にも足を運んでみるものだ。こんな面白い人々との出会いが待っているのだから。 ちなみにルイスさんとの会話のその後だが、私もルイスさんも作品を見ながらしばらく別の人々と会話を楽しんでいた。そのうち彼は「またどこかで会いましょう」と軽く挨拶し去っていった。 連絡先も交換せず、ご縁があればまたどこかで。何とも後腐れのないニューヨークらしい出会いだ。 [All photos by Kasumi Abe]All images and text are copyrighted.

007 創作カクテルのおいしいバー「The Binc」

ブルックリンのガイドブック『NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ』の著者、安部かすみが、本で書ききれなかったことや、まだあるお気に入りスポットを紹介します。「大切な友人に紹介するとしたら?」という目線で選んだとっておき、今週はブルックリンハイツにある「The Binc」です。 ブルックリンには、歴史的建造物の保存地区が33カ所もあり、ブルックリンハイツは第1号として1965年に認定された地区。 それより102年も前の1863年に創立されたブルックリン歴史博物館を中心に、映画に出てくるような重厚なブラウンストーンが一帯に広がり、街歩きが楽しい地区です。 関連全6店はすべてブルックリンに そんなブルックリンハイツを散策していてたまたま見つけたバーが、この「The Binc」でした。 The Bincがオープンしたのは2016年。姉妹店全6店の一つとして誕生しました。 姉妹店は、Bevacco、Provini、Bar Tano、Bar Toto、Ogliastroなど、すべてブルックリンにあり、イタリア系です。 そしてBevaccoとThe Bincは隣同士で、Bevaccoでの食事後にThe Bincへ移動し2次会というのもカンタンです。 The Bincは看板バーテンダーのフレージャー・タイが生み出す、季節ごとのクラフトカクテルが自慢。常時13種類以上がそろい、好みを伝えればその場でオリジナルカクテルを作ってくれます。 中でも人気は、日本文化にインスパイアされた酒&ジンベースの「ボンサイ」と、メキシコの蒸留酒メスカルベースの「エビータ」。 私はボンサイをいただきましたが、ワサビが鼻腔を通ってほんのり香り、レモンの爽やかさと黒コショウの苦味が混じり合ったユニークな味で飲みやすく、一瞬で飲み干してしまいました…。 環境問題にも真剣に取り組む店 この店は、環境問題にも真剣に取り組んでいます。脱プラスチックに向け、プラ製ストローから紙ストローへの移行をオープン時から計画していました。取引先の会社が紙ストローを取り扱っていないため、紙ストローの業社を調べたそう。 「価格は1本プラ製が0.005セントほどなのに対して、紙製は3~5セントほどに値上がりしました。でも環境保全を考えたらどうってことのない差額です」と、ジェネラルマネジャーのエイミー・マスセナ。 今後は、フードの持ち帰り用の紙製容器の導入も考えていくそうです。T (Text & Photo by Kasumi Abe  安部かすみ) 本稿はWeekly NY Japionのコラム 、安部かすみ(Brooklyn本著者)が案内する「古くて新しい、とっておきのブルックリンへ」からの転載。無断転載禁止

006 川沿い&絶景が魅力の地中海店「Celestine」

ブルックリンのガイドブック『NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ』の著者、安部かすみが、本で書ききれなかったことや、まだあるお気に入りスポットを紹介します。「大切な友人に紹介するとしたら?」という目線で選んだとっておき。今週はダンボにある「Celestine」です。 イーストリバー沿いの絶景が眺められるダンボの老舗レストランといえば、昔も今も「The River Cafe」(ザ・リバーカフェ)。プロポーズの場所としても有名で、これまで何組のカップルがここで結ばれたことか。 明るい店内&天気の良い日はテラス席へ 高級&ロマンチック路線はThe River Cafeがダントツおすすめですが、よりリーズナブルでカジュアルな雰囲気を探しているなら、ぜひ「Celestine」へ。 地中海料理店のCelestineは2017年10月にオープンしたばかり。全面ガラスの明るい雰囲気で、川沿いの景色を眺めながらの食事はおいしさがさらに増します。 店を取り仕切っているのは、ハワイ出身で飲食業界20年のマネジャー、ニック・フォルチャー。フレンチやベジタリアン・レストラン、ペイストリー業界でキャリアを積んできたニック。実は日本にあるイタリアンレストランでも働いた経験があるそうです。しかしなぜ日本へ? 「名古屋のNOVAで英語教師をしていたんだけど2007年に会社が破綻したため、東京の広尾にあるイタリアンのシェフから声が掛ったんです」 名古屋に4年と東京に1年住み、ニューヨークへ。ブルックリンのボーラムヒル地区にあるイタリアンの名店「Rucola」(ルッコラ)で働き、オーナー&レストラター(飲食ビジネスを手広くするビジネスマン)であるジュリアン・ブリッツィに実力を認められ、彼が新しく手掛けるようになったCelestineをまかされることになったのです。 新鮮なアペタイザーやワインがおすすめ 味もお墨付きです。主に東地中海沿岸料理(トルコ、イタリア、ギリシャ)をニューヨークスタイルでアレンジしているのは、アメリカ人シェフのガレット・マックハーマン。 ジューシーで香ばしいラム・カバブや、新鮮なメゼ(アペタイザー)をいただきましたが、焼き立てのフラットバン(パン)や地中海の各種コーストワインとの相性もぴったりでした。天気の良い日は、テラス席がおすすめです。 C 取材こぼれ話 今週のジャピオン掲載の私のコラム「古くて新しい、とっておきのブルックリンへ」は、ダンボの景色の良い地中海レストラン。伊語で苦いという意味の食後酒Amaroは消化を助け、日本の養命酒のように老人が飲んでたけど今では若者のトレンドのドリンクだって。お昼から、美味しゅうございました😇 pic.twitter.com/MbA7re8YR8 — a.kasumi NY (@kasumilny) October 27, 2018 (Text & Photo by Kasumi Abe  安部かすみ) 本稿はWeekly NY Japionのコラム 、安部かすみ(Brooklyn本著者)が案内する「古くて新しい、とっておきのブルックリンへ」からの転載。無断転載禁止

005 ブルックリナイツの社交場「Royal Palms Shuffleboard Club」

  ブルックリンのガイドブックの著者が、本で書ききれなかったことやまだまだあるお気に入りスポットをご紹介します。大切な友人に紹介するとしたら?という目線で選んだ私のとっておきスポット。今週は「Royal Palms Shuffleboard Club」です。     メタルの加工工場をリノベートした、500人収容可能な「Royal Palms Shuffleboard Club」。 1,579平方メートルの広さを誇る元工場ならではの広くて開放的なスペースは、ブルックリンならでは。友人から「ブルックリンらしいところに行きたい」というリクエストを聞いて、まず思い浮かぶお店です。 ここでは、夜な夜なブルックリナイツ(ブルックリン子)がニューヨークでも珍しいシャッフルボードをしながら、飲んだりおしゃべりしたりして、社交を楽しんでいます。   誰でも簡単にできるルールが魅力 シャッフルボードとは、キューと呼ばれる長い棒で円盤を突いて点数が書かれた枠の中に入れるゲームのこと。2人以上からプレーでき、もともとはクルーズ客船の甲板で行われていたスポーツとのこと。 オーナーのジョナサン・シュナップスは、「初心者には無料レッスンがあります。シンプルなルールので、誰でもすぐにプレーできるようになりますよ」と紹介してくれました。   人気は東海岸から中西部にも拡大中 ジョナサンがシャッフルボードと出合ったのは、幼少のころ。 祖父母の住むフロリダで人々がプレーしているのを初めて見て興味がわき、大人になったある日「ブルックリンで若者がシャッフルボードをプレーできる場を作ろう」とひらめいて、2013年にオープン。これが大当たりして噂が広がり、シカゴにも姉妹店ができました。 飲みながらする軽めのスポーツかと思いきや、参加者はチームごとにユニフォームなどをそろえて、リーグトーナメントも開催するほどの熱の入りよう、です。 シャッターを開けたスペースには、週替わりのフードトラックが横付けされ、タコスやホットドッグ、バーベキューなどの軽食も楽しめます。それぞれのグループがプレーしているのを、飲みながら見るだけでも楽しめますよ。   コートの使用料は、1時間40ドルで予約不可(早いもの勝ち)。人数が多ければ多いほどお得です。パーティーは10人以上からコートの予約が可で、ドリンクつきのパッケージ料金も用意されています。 Royal Palms Shuffleboard Club (ロイヤル・パームズ・シャッフルボード・クラブ) (Text & Photo by Kasumi Abe  安部かすみ) 本稿はWeekly NY Japionのコラム 、安部かすみ(Brooklyn本著者)が案内する「古くて新しい、とっておきのブルックリンへ」からの転載。無断転載禁止