死の間際に描き続けたゴッホの名作『星月夜』など「糸杉展」。メットで明日より

ニューヨークのメトロポリタン博物館(メット、Met)で、いよいよ明日5月22日からフィンセント・ファン・ゴッホの『Van Gogh’s Cypresses(ゴッホの糸杉)』展がスタートする。 パリを離れたゴッホ(ファンゴ)は、精神を患いサン-レミの病院に入院中、自殺未遂をし、亡くなる直前まで心惹かれた糸杉を夢中で描き続けた。 メット所有の、誰もが知る名作『The Starry Night(星月夜)』から『Wheat Field(糸杉のある麦畑)』(共に1889年)など、糸杉を描いた作品がずらりと一堂に集結。弟とのつながりや最終的な別れ、最後は死を象徴している作品群。 初めて糸杉シリーズを見たが、亡くなる前年とは思えないほど力強い筆致で、炎のように湧き出る生へのエネルギーが渦巻いている。130年近く経ってもエネルギーが伝わってくる。(すごい!) この「糸杉展」は3つのコーナーに分かれていて、絵画と共に弟に宛てた手書きの手紙なども展示されている。 取材後記: 1- 日本ではゴッホと呼ばれるこの絵画の巨匠は、アメリカでは一般的に「ヴァンゴ」と呼ばれるが、プレスプレビューでの会見で会見をした人は「ファンゴ」と呼んでいた(おそらくオランダ風の読み)。いろんな呼ばれ方があるよう。 2- 昨年秋にヨーロッパの美術館で、環境活動家とされる者たちが世界の名画に向けペンキやマッシュポテト、接着剤などが投げつけられる事件が続いた(絵画はガラスで覆われていたため無事)。その影響か、この日のプレスプレビューでは入り口で「再度」バッグの中身チェック(特にタンブラーなどに液体が入っていないか)されるという念の入れようだった。 Van Gogh’s Cypresses展は、2023年8月27日まで @ The Metropolitan Museum of Art Text and photo by Kasumi Abe (「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)無断転載禁止

日本初「体験型ゴッホ展」仕掛け人の「こだわり」とは。新作「クリムト展」NYでスタート

世界各地で注目の没入型アート 埼玉で「ゴッホ」展 ゴッホの歴史的な名画を目と耳で鑑賞する、日本初の360度体験型デジタルアート展「ファン・ゴッホ ー僕には世界がこう見えるー」が、今年6月18日から11月27日まで開催中だ。 会場は、埼玉県所沢市の角川武蔵野ミュージアム。 最新テクノロジーを駆使して作られた映像を、会場の壁や床、柱など360度に投影し、音楽と共に披露されるこのインスタレーションは、イマーシブアート(没入型アート)とも呼ばれ、世界各地で注目されている。 展覧会は現在、日本のみならずパリ、アムステルダム、ソウル、ドバイなど世界各地で開催中だ。 筆者も「体験」したことがあるが、作品は目と耳の両方で感じ、映像は会場全体に(自分の足元の床まで)投影され、アート展というより「ショー」というニュアンスの方が近いと感じた。 見る角度によって作品の見え方がまったく異なるため、歩きながら鑑賞するも良し、ただ座って作品に没入するも良し。自分の好みで楽しめる。 NYでは最新「クリムト」展も グスタフ・クリムトの作品をテーマにしたイマーシブアートの最新作「ゴールド・イン・モーション(Gold in Motion)」もこのほど完成した。こちらはニューヨークで現地時間9月14日から、約10ヵ月間の予定で開催される。 会場は1912年に建てられたランドマーク的な高層ビルで、最新のデジタルアートセンターとして生まれ変わったばかりのホール・デ・ルミエール(Hall des Lumieres)。ここは、旧・移民産業貯蓄銀行(Emigrant Industrial Savings Bank)で、分厚い扉の金庫室までも展示室としてそのまま残されている。最先端のイマーシブアートと20世紀初頭の歴史的建造物が見事に融合している。 GUSTAV KLIMT: GOLD IN MOTION | NYC 世界中で開催されているこのイマーシブアート。その仕掛け人は、イタリア人クリエイティブ・ディレクターのジャンフランコ・イアヌッツィ(Gianfranco Iannuzzi)氏。クリムト展でニューヨークに滞在中、話を聞くことができた。 ベニス出身で、仕事で世界中を行き来している以外は、パリをベースに活動するイアヌッツィ氏。イマーシブアートを手がけて8年、アート業界では32年のベテランだ。 そんな最先端のアートシーンを牽引する彼に、作品作りにおいて絶対に譲れないものを聞いた。 まずは場所の選定だ。 プロジェクトの準備に1年かけ、その初期段階で会場選びのため現地に飛び、実際に自分の目で確かめるという。 「これは自分にとって重要な作業です。イマーシブアートはバーチャル体験ではなくフィジカル体験だから、どの街のどのような会場で行うか、自分で確認することはとても大切です」 世界中で展開している作品だが、どれ一つとて同じものはないと言う。 「今日本で開かれているゴッホ展も、昨年ニューヨークで見せた作品とは違います。会場の特性に合わせ、新たな作品として一から作り変えています」 自ら趣き、会場内を歩く。自分の五感で確かめ、瞑想をして心を落ち着かせ、そこから得たインスピレーションを作品に取り込む。 映像と共に流す音楽選びも、自ら行う。 「音楽は体験型アートの大切な要素です。同じヴィジュアルでも、感情を喚起する音楽次第でまったく違う作品として映るからです。自分で音楽も手がけると、イメージや動画、すべての要素を自分の頭の中でつなげる作業ができます」 もう一つ譲れないこと。それは初期段階でインスピレーションを得るために、また実際に作品に使うために、会場や素材写真を自ら撮影するということだ。すべての創作はそこから始まる。クリエイティブ・ディレクターといえば現場の総監督といった立ち位置だが、自らがやることが自分にとって大切なのだと言う。そのような地道な作業をアシスタントに任せない理由は、 「自分が欲しいものは自分が一番知っているし、誰かに説明してやってもらうより自分がやった方が早いのです」 自分でやるという姿勢を貫いているのは、ほかにも訳がある。「どういう作品にしていくのか?ストーリー仕立ては?それらを考える時、誰かに頼んでいたらアイデアなど出てきません。想像力が掻き立てらるのは、いつも自分で動いてみた『後』なのです」 一言一句に地位や経験値に甘んじることのないプロ意識と「職人」としてこだわりが垣間見えた。 撮影で使い分けているカメラは、キヤノン、ニコン、パナソニック。日本が好きで、今年5月も仕事で訪れたばかりだ。「今ゴッホ展が行われている角川武蔵野ミュージアムは、とてもモダンで特別な場所です。10万人もの来場者がすでにあったと聞いてとても嬉しい気持ちです。日本での次回作はおそらく来年、東京やその近郊で行う予定です。ゴッホ展、そして次回作もどうぞお楽しみください」。 補足 Interview, text and photos by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース 個人より一部転載)無断転載禁止