今日6月5日は、世界環境デー(環境の日、World Environment Day)。ニューヨークの世界貿易センター跡地で、地球の環境問題に訴えかける新たなパブリックアートの展示が始まった。 この巨大な地球儀は、実はプラスチックごみからできたもの。手がけたのは、イスラエル在住の芸術家、ビバリー・バーカット(Beverly Barkat)さんで、作品名は「アース・ポエティカ」。 ビバリーさんが6大陸の海岸や海洋から、友人にも協力してもらいかき集めたプラスチックごみを、竹を割った隙間に詰めて作った。外から見ると、外から差し込む優しい光に照らされてステンドグラスのような美しさを放っているが、内側を覗いてみるとこれらの美しさのディテールは実は「ごみ」であることに気づく。 ビバリーさんはこの展示スペースと縁があり、視察をするタイミングで、たまたま観たドキュメンタリーでプラスチックごみ汚染の現実を知った。「この問題についてリサーチをすればするほど、これは1国ではなく世界が手を取り合って解決しないけといけないことだとわかった」とバーカットさん。これがごみによる地球儀を作るきっかけになった。「グランドゼロに位置するこの場所は世界中から観光であらゆる人が集まる場所。あらゆる人がこの作品を見て、この環境問題について考えるきっかけになれば」。 展示はグランドゼロにある3ワールド・トレードセンター(3 World Trade Center, New York, NY 10007, USA)にて今秋まで。入場無料。 Earth Poetica by Beverly Barkat Text and photos by Kasumi Abe (「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)無断転載禁止
Tag: ニューヨーク
さまざまな「愛の形」の写真展。アラーキー(荒木経惟)、題府基之などNYのICPで
ニューヨークのICP(International Center of Photography)で愛をテーマにした新たな企画展Love Songs: Photography and Intimacyが6月2日からスタートする。 ラブソングというタイトルにもあるように、結婚、ハネムーン、子育てなど人生の素晴らしい愛の側面だけでなく、別れや二股、暴力など痛みの愛の側面も含んだもの。 著名写真家のナン・ゴールディン、日本を代表するアラーキー(荒木経惟)の「冬の旅シリーズ」(89-90年)、そしてNY市内の美術館で初の作品お披露目となる題府基之(だいふもとゆき)、中国と日本のカップルで活動歴20年以上になるロンロン&インリ(RongRong&inri 荣荣&映里)など、国際色豊かな16名の写真家の作品250点以上。 荒木氏の作品は90年代、私が日本にいた時、大きな話題になったのを今でも覚えている。この企画展では、71年に結婚した妻・陽子氏との幸せな時間と、90年陽子氏の死去時と猫のチロの作品が通路を挟んで対局に並ぶ。参加者は、興味津々で作品に見入っていた。(トップ写真) 久しぶりにアラーキーの作品を目にしたが、時代が移り変わっても彼の写真は何か訴えかける独特の風情がある。それは国境を越えても、人々に伝わっていると感じた。 3階の展示室では、ドミニカ共和国出身でヨーロッパで活動する、カーラ・ヒラルド・ヴォロウ(Karla Hiraldo Voleau)の、Another Love Story, 2020が飾られてある。カーラが出会った男性Xは同棲をする彼女がいた。その複雑なリレーションシップを、出会いの8月から別れの6月まで時系列に表現したドキュメンタリー作(相手の女性とは信頼関係を築いたそうだ)。顔が写っている元彼Xはモデルさんを雇ったそうだ。写真はケータイで撮影、複雑な三角関係はなかなかリアル。 本企画展は、パリのヨーロッパ写真美術館(Maison Européenne de la Photographie)と提携して企画されたもの。2023年6/2から9/11まで。 Love Songs: Photography and Intimacy @International Center of Photography Text and photos by Kasumi Abe (「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)無断転載禁止
『シン・仮面ライダー』全米劇場公開へ 上映会でファンから雄叫び上がる
国民的ヒーロー、仮面ライダーがスクリーンに蘇った最新映画『シン・仮面ライダー』。日本で今年3月に公開以降、興行収入が20億2000万円(4月23日時点)を突破し、歴代の『仮面ライダー』映画史上最高記録を樹立したとして話題だ。 海を越え、この新作がいよいよアメリカに上陸する。 5月31日と6月5日の2日間、全米1000館以上の劇場で公開が決まった。どの映画館で上映されるかは、配給会社ファゾム・イベンツのウェブサイトで確認できる。 全米公開に先立ち、ニューヨークのジャパン・ソサエティーは23日にファンを招き、北米プレミア上映会を行った。 映画自体は現代を舞台に、仮面ライダーが「悪」に立ち向かうため、暴力と流血シーンのオンパレードだが、ファンは演技や演出が気に入ったようで、そのようなシーンのたびに「オォ!」と大歓声と時に“笑い”が沸き起こり、盛り上がりを見せた。 両親の仕事の関係で北海道で育ち、現在はニューヨークで暮らすアメリカ人男性は、『仮面ライダー』を観て育った1人。「仮面ライダーは自分にとっての永遠のヒーローだから、この日を楽しみに待っていた」と、上映イベントを待ちきれない様子だった。 会場では撮影ブースも設置され、上映後に仮面ライダーと記念撮影をしたいと列を成すファンの姿が絶えなかった。 『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』『新世紀エヴァンゲリオン』などで海外でも高い評価を得ている庵野秀明氏の脚本・監督作の『シン・仮面ライダー』。当初、全米公開は一夜限りだったが、これらの盛り上がりから急遽さらにもう1日が追加された。アメリカでも日本の国民的ヒーロー、仮面ライダー旋風が巻き起こるだろうか? Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース 個人「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)無断転載禁止
NYの「リアル」丸わかり!NY市美術館で特別展 明日より
あなたの知らないニューヨークがここに。これぞ『NYのリアル』がわかる特別展が明日より開催となる。 アップタウン地区の「ミュージアム・シティ・オブ・ニューヨーク」は、創立100周年を記念し、この街のアートとポップカルチャーにフォーカスした特別展This is New York: 100 Years of the City In Art and Pop Cultureをスタート。 ニューヨークの文化の代表格は、ストリートと地下鉄。おそらく観光で訪れると華やかで賑やかで楽しい「エキサイティング」な思い出が刷り込まれるだろう。 一方この地に根ざすと「リアル」なニューヨークの側面も見えてくる。それは人混み、渋滞、ゴミや害虫問題、孤独…。この特別展では、そんな光と影の両方がコントラストに表現されている。 映画やドラマ、レコードやCDジャケットの撮影地としても有名な当地は、『スパイダーマン』、『ジョーカー』『セックス・アンド・ザ・シティ』の舞台としても知られる。そんな撮影現場のシーンを表した1コマや、ドラマの中で使われた小物なども展示され、作家やクリエイターらがこの街に受けたインスピレーションが展示を通して伝わってくる。 ただ見るだけではなく、本や音楽ビデオなど音で聞く没入型コーナーもあり、大人も子どもも両方楽しめる。 特別展は、5月26日から来年7月まで開催。 (祝100歳の同博物館は、リノベーションが終わったばかりで驚くほど綺麗です) Info: Museum City of New York(MCNY) Text and photo by Kasumi Abe (「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)無断転載禁止
死の間際に描き続けたゴッホの名作『星月夜』など「糸杉展」。メットで明日より
ニューヨークのメトロポリタン博物館(メット、Met)で、いよいよ明日5月22日からフィンセント・ファン・ゴッホの『Van Gogh’s Cypresses(ゴッホの糸杉)』展がスタートする。 パリを離れたゴッホ(ファンゴ)は、精神を患いサン-レミの病院に入院中、自殺未遂をし、亡くなる直前まで心惹かれた糸杉を夢中で描き続けた。 メット所有の、誰もが知る名作『The Starry Night(星月夜)』から『Wheat Field(糸杉のある麦畑)』(共に1889年)など、糸杉を描いた作品がずらりと一堂に集結。弟とのつながりや最終的な別れ、最後は死を象徴している作品群。 初めて糸杉シリーズを見たが、亡くなる前年とは思えないほど力強い筆致で、炎のように湧き出る生へのエネルギーが渦巻いている。130年近く経ってもエネルギーが伝わってくる。(すごい!) この「糸杉展」は3つのコーナーに分かれていて、絵画と共に弟に宛てた手書きの手紙なども展示されている。 取材後記: 1- 日本ではゴッホと呼ばれるこの絵画の巨匠は、アメリカでは一般的に「ヴァンゴ」と呼ばれるが、プレスプレビューでの会見で会見をした人は「ファンゴ」と呼んでいた(おそらくオランダ風の読み)。いろんな呼ばれ方があるよう。 2- 昨年秋にヨーロッパの美術館で、環境活動家とされる者たちが世界の名画に向けペンキやマッシュポテト、接着剤などが投げつけられる事件が続いた(絵画はガラスで覆われていたため無事)。その影響か、この日のプレスプレビューでは入り口で「再度」バッグの中身チェック(特にタンブラーなどに液体が入っていないか)されるという念の入れようだった。 Van Gogh’s Cypresses展は、2023年8月27日まで @ The Metropolitan Museum of Art Text and photo by Kasumi Abe (「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)無断転載禁止
「NYでも大会準備、着々と」2026年ワールドカップ3ヵ国共同開催に向け米国でキックオフ!
次回のFIFAワールドカップ(W杯)へ向けたキックオフ・イベントが18日、ニューヨークのタイムズスクエアで行われた。 各国のサッカーファンを迎え、ニューヨーク市のエリック・アダムズ市長とニュージャージーのフィル・マーフィー州知事が、壇上で大会開催に向け抱負を語った。 開催都市の1つになっているニューヨークとニュージャージー地区。試合会場となるニュージャージー州メットライフ・スタジアム(別名ジャイアンツ・スタジアム)は、1994年に7試合、99年に女子ワールドカップの4試合を開催した実績がある。 マーフィー州知事は再開催について、「大規模なイベントは我が都市がもっとも得意。着々と大会開催に向け準備を整えている」と語った。参加国が22年大会の32ヵ国から48ヵ国に増えることについて、アダムズ市長も「ここでは200以上の言語や方言が話され、48ヵ国すべての人が住むなど多様な文化がある」とし、「世界中のサッカーファンを迎え入れる日を楽しみにしている」と述べた。 事前登録してイベントに参加したメキシコ人のヤリーズさんは、共に訪れたアルゼンチンチーム・サポーターのマリーナさんらと、「こんなに近くで開催が決まり嬉しい。今からとてもワクワクしている」と喜びを表した。 キックオフを記念し、タイムズスクエアの電光掲示板はワールドカップ一色になり同地区開催の公式ロゴがお披露目された。 48チームが出場する次回の大会は、2026年6月11日から7月19日までの1ヵ月強にわたり、アメリカ、カナダ、メキシコの3ヵ国で初めての共同開催となる。 ニューヨーク/ニュージャージー地区のメットライフ・スタジアムのほか、ロサンゼルスのSoFiスタジアムやダラスのAT&Tスタジアムなど国内の11都市を含む3ヵ国全16都市で試合が行われる。 W杯関連 2022年大会の記事 Text and photos by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース 個人「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)無断転載禁止
「日本」一色に。NYで第2回「ジャパンパレード」開催【写真多め】
ニューヨークで13日、第2回目となる「ジャパンパレード(Japan Parade)」が行われた。 アメリカで毎年5月は、アジア系および太平洋諸島系アメリカ人の文化遺産に敬意を払う「AAPI月間」だ。日本の伝統や文化を紹介するジャパンパレードもその一環で、日米友好の証として昨年スタートした。 今年も和太鼓や武道など日本文化関連の団体、日系企業、日系の退役軍人、キャラクター系など90団体以上、約2500人が行進した。 オープニングセレモニーの後、午後1時にパレードはキックオフ。ニューヨーク市警騎馬警官隊に続き、グランドマーシャル(パレードのキックオフを飾る一人、メインゲスト)が登場。今年は、元フィギュアスケート選手で1992年のアルベールビル冬季オリンピックの金メダリスト、クリスティ・ヤマグチさんが務めた。 スペシャルゲストとして、人気漫画・アニメ『NARUTO-ナルト-』のライブ・スペクタクル版のキャラクターが登場した。 うずまきナルト(中尾暢樹さん)、春野サクラ(伊藤優衣さん)、はたけカカシ(君沢ユウキさん)などがライブパフォーマンスを行うと、沿道から大歓声が上がった。 ニューヨークは初めてと言ううずまきナルト役の中尾さんは、パレードを通してニューヨーカーの愛を感じたと言う。 「みんなナルトの格好をしていたりリアクションもすごくて、ナルトのことめっちゃ好きなんだなって思いました」 世界中でのナルト人気について尋ねられると、「いろんな漫画がある中で、忍者とか、勇気、汗、正義など日本のいい所がすべて詰まっているのがナルト。それが受け入れられているんじゃないかな」と話した。 在ニューヨーク日本国総領事館の森美樹夫大使は、今年のパレードについて「沿道のお客さんの人気が去年より増し、すごく嬉しい」と語った。 日本人の特徴とされる細やかさ、心配り、丁寧な仕事などは当地で一見目立たないが、この熱気から日本のプレゼンスの盛り上がりを少しずつ実感しているという。「日本の良さをニューヨーク、アメリカそして日本の方々にも(日本人がここで)これだけ頑張っているんだよって伝えていきたい」。 パレードのすぐ近くではストリートフェアが催され、お好み焼き、たこ焼き、カレー、おにぎりなど日本食の出店が並び、通りは大混雑した。昨年の出店数は10店舗だったが、今年はより広い通りに移動し30店舗に拡大したのだが、それでも長蛇の列はパレード終了後まで続いた。 写真で振り返る「Japan Parade 2023」 昨年のジャパンパレード Text and photos by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース 個人「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)無断転載禁止
『オペラ座の怪人』や『KPOP』相次ぐ終演。コロナ後のNYブロードウェイの「今」
35年続いた『オペラ座の怪人』が終演 ニューヨークで先月16日、ロングランのブロードウェイ・ミュージカル『オペラ座の怪人』が、長い歴史に幕を閉じた。 同演目は当地で1988年に始まり、ブロードブウェイ史上最長の35年の歴史を誇った。米フォーブスやNPRによると、これまで開いた公演数は1万3,981回にも上り、累計2000万人以上の観客を魅了してきた。 (ロングランとしては、2位に『シカゴ』、3位に『ライオンキング』が続く) 『オペラ座の怪人』は、プロデューサー、キャメロン・マッキントッシュ氏の発言として「パンデミック以前から赤字だった」と伝えられた。 この規模のミュージカルは1回の公演ごとに、キャスト、バンドやオーケストラだけでなく、舞台裏のスタッフも含め100人以上によって支えられている。人数は芝居の規模によって異なるが、『オペラ座の怪人』は演者と裏方合わせて125人規模で行われていた。 それら人件費に加え、大掛かりな舞台セットを毎回解体せずに固定させておく会場の維持費も相当なものだ。 AP通信は、「このミュージカルは同時多発テロやリーマンショックなどニューヨークのさまざまな困難や局面を共に乗り越えてきたが、新型コロナウィルスのパンデミックが最後の災難となった」と伝えた。 パンデミックから復活するも… ニューヨークのブロードウェイ・ミュージカル・シーン(劇場街、芝居業界)の売り上げと入場した観客数は、2018年から19年にかけてのシーズンがもっとも活気があった。しかし近年は困難に見舞われた。パンデミックにより、20年3月に全劇場が一時閉鎖し休演となった。当初は1ヵ月の予定が3ヵ月に伸び、さらにまた延長を繰り返し、結局業界全体で1年半にわたる休演を余儀なくされた。 しかもこれはパンデミックに始まったことではないが、ブロードウェイ・ミュージカル・シーンは、エンタメ業界の中でも非常にシビアな世界だ。いくら一部のコアファンの心を掴もうとも、黒字が見込めない作品はすぐに打ち切りとなってしまう。 韓国のBTSの成功で、世界中で大人気のKポップにあやかって、Kポップを題材にしたブロードウェイ・ミュージカル『KPOP』が、昨年秋に再演*となっていた。世界中のKポップファンが劇場に押し寄せ、当初は今年春まで上演予定でリスタートしたはずだった。 しかし音楽の人気とは裏腹に、ブロードウェイでの状況は異なった。連日の満員御礼とはならず、空席が出る芝居の上演を続けていくのは困難と判断された。本公演がスタートして約1ヵ月足らずでの発表だった。最終公演は昨年12月11日で、そのあまりにも早い決断と展開に、ファンは驚きを隠せなかった。 カナダを含む北米全体のブロードウェイ業界団体、ザ・ブロードウェイ・リーグ (The Broadway League)は、1984-85年シーズン以降のブロードウェイ公演の売り上げや入場者数を発表している。 このデータによると、コロナ前の2018-19年シーズンがもっとも活況で、業界全体の売り上げが18億ドル(当時の為替で約1,940億円)を超え、来場者数も1,477万人規模を記録した。しかしパンデミックからの再演後(2021-22年シーズン)の売り上げは8億ドル規模に留まり、来場者数も673万人と伸び悩む。 地元の小学生対象に「裏方」イベント そんな中、業界ではより多くの観客にミュージカルに足を運んでほしいと、さまざまなアプローチで文化を盛り上げ、巻き返しを図る試みが見られる。 ミュージカルの舞台裏を紹介するイベントが今月11日、地元の小学生を対象に行われた。非営利団体のインサイド・ブロードウェイ(Inside Broadway)が行っている年2回の恒例イベントで、役者や演奏者のみならず、裏方(マネージャー、照明、音響、舞台装置、技術、美術、衣裳そして経理まで)がどのようにステージに関わり、公演が実現できているかを紹介するもの。これまでも『オペラ座の怪人』『マンマ・ミーア!』『キャッツ』『レ・ミゼラブル』など、人気公演の舞台裏を市民に紹介してきた。 今回の裏方紹介イベントでは、人気ミュージカル『ムーラン・ルージュ!(Moulin Rouge!)』がフィーチャーされた。 参加した小学生の半分以上はこの日が「初のブロードウェイ体験になった」と答えた。「剣を飲み込むマジックの種明かしが面白かった」「ステージの下の見えない所に14人のバンドがいて生演奏しているなんて知らなかった」「演者の人数以上のスタッフがステージの裏で支えているとは」と感嘆の声が上がり、大盛況だった。 バスに乗って観劇『The Ride』も再復活 演劇界でもっとも権威あるトニー賞は今年は6月11日に予定されている。それを間近に控えたシーズンとあり、ミュージカルへの人々の注目度は高まっている。 パンデミックの休演から再復活したのは、専用バスでニューヨークの街中を走りながら観劇する一風変わった公演『ザ・ライド(The Ride)』もそうだ。 コロナ前は日本語版も用意されるほど、日本人観光客にも好評だった。21年に再開したものの、翌22年10月に再びクローズ。数々の困難を経て、やっと先月末に再度復活を果たした。 14年から8年間、演者の1人として同公演に出演している日本人プロダンサーの中澤利彦さんも、再復活の日を首を長くし待っていた。 「休演と再開を繰り返し、再び戻ってくることができました。ニューヨークの街も活気付いてきたので、たくさんのお客さんとの出会いを楽しみにしています!」 関連記事 Text and photos by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース 個人「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)無断転載禁止
NY地下鉄ホームレス殺害起訴されず。息の根止める危険な技「チョークホールド」とは?
ニューヨークの地下鉄で今月1日、黒人男性が乗客に首元を圧迫され殺された。その時の様子を映し出した動画がSNSで拡散され、物議を醸している。 ホームレスのジョーダン・ニーリー(Jordan Neely)さん(30歳)は、路上でマイケル・ジャクソンのモノマネ・パフォーマンスをし生計を立てていたが、精神疾患を患い、家賃が高騰した市内でホームレスの身だった。 同日午後2時半前、ニーリーさんは地下鉄F線で迷惑行為を始めたとされる。当地では物乞いをするホームレスや喚き散らす不審者がたまにいる。コロナ禍以降、地下鉄での凶悪事件が急増しているため、警官が目を光らせ乗客も少しの異変に敏感になる。 ニーリーさんはこの日、電車内で大声で空腹を訴え、「自分は死んでもいい」と言いながら乗り合わせた人々を脅し始めたという目撃情報がある。それを止めに入ったのが、24歳の白人男性、ダニエル・ペニー氏だった。ペニー氏はニーリーさんの背後から腕で首を圧迫させる「チョークホールド」を加えた。ニーリーさんは次第に意識を失い、病院で死亡が確認された。ガタイが良いペニー氏は、21年に一時除隊するまでの5年間、米海軍に所属していた。 SNSで拡散された動画では、首元をしばらく圧迫されたニーリーさんの死にゆく様子が映し出されている。男3人がかりで拘束され手足を動かしながら抵抗を見せていた。次第に目を閉じ、ほとんど力が残っていなかったようだがペニー氏は最後まで手を緩めていない。このような動画が拡散され、遺族にとってたまったものではない。 ニーリーさんの母親は2007年に殺人事件の被害者となりすでに他界。ニーリーさんの精神は母親の殺害後に乱れたという情報もあり、これまで薬物乱用や暴行罪など数々の逮捕歴があった。 この殺人事件は、アメリカそしてニューヨークが抱えるさまざまな問題を炙り出した。 一つは、地下鉄で多発する事件 一つは、増え続けるホームレス問題 一つは、増え続ける精神疾患患者の問題 一つは、黒人への暴力 一つは、(社会的弱い立場の)人間の正義 そして、チョークホールド。 チョークホールドとは? チョークホールドとは、相手の背後から腕を使って首元を圧迫する技で、プロレス技のヘッドロックに似ている。頚動脈をふさぐ非常に危険な技で、首絞め、絞め技、裸絞め、スリーパーホールドなどとも呼ばれる。かけられた相手は息ができず、次第に意識がなくなる。ニューヨーク州では2020年の警察改革で、警官であってもチョークホールドを加えることは禁じられるようになった(後述)。 ニーリーさんの死亡事件で、加害者が行ったのはまさにチョークホールドだった。加害者は一時期海軍に所属し、その間2度戦地に赴いたことがある。そのような経験があれば弱々しいホームレスを相手にどの程度の力を加えると死に至るかは知っていたはずである。 ニューヨークタイムズも「ニーリー氏の死はあってはならない悲劇であり、もっとも弱く社会から阻害されている立場の市民に対して、市の政策が不十分であることを浮き彫りにした」と問題提起した。 ニューヨークは、黒人男性へのチョークホールドで死に至った事件のトラウマがある。9年前のエリック・ガーナー窒息死事件だ。ミネアポリスの白人警官が膝で首を押さえ殺害したジョージ・フロイド氏の殺人事件を発端にした2020年のBLM運動の前兆とも言える大事件だった。 エリック・ガーナーさんの事件は、ニューヨーク市スタテン島で2014年7月17日に発生。43歳の黒人男性、ガーナーさんが警察と押し問答の末、白人のダニエル・パンタレオ警官にチョークホールドされ、「I can’t breathe(息ができない)」と何度も訴えながら死んだ。 パンタレオ氏は不起訴となり、ガーナーさんの死の正義のため市内で抗議活動が起こった。パンタレオ氏はその後、NYPD(ニューヨーク市警察)を解雇処分となったのだが、ガーナーさんの死の5年後、2019年8月19日のことだった。 事件自体は、遺族が市を相手に訴訟を起こし、賠償金590万ドル(現在の為替で約8億円)の支払いで和解した。ガーナーさんの死が引き金となり、20年にはニューヨーク州の警官に対してチョークホールドを禁ずる、エリック・ガーナー・アンチ-チョークホールド法(Eric Garner Anti-Chokehold Act)が可決された。 今回ニーリーさんを殺害した加害者のペニー氏は、一時的に拘留され警察の事情聴取を受けたが、自衛と認められ逃亡の危険性もないことから同日釈放されている。起訴はされておらず、地方検事により捜査が進められているが、今後起訴されるかどうかも不明だ。 ニーリーさんの死の説明責任そして正義のため、当地では再びデモが起こっている。一方で、ニーリーさんが問題行動を起こしていたことから、市民の中にはペニー氏に同情し擁護する声も上がっている。 過去記事 Photo: 「黒人のジョーダン・ニーリーを殺したのは誰だ?」と書かれたNYの地下鉄。 Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース 個人「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)無断転載禁止
80年代ヒット映画『セーラー服と機関銃』はアメリカ人にどう映った?(相米慎二作品NYで上映中)
2001年に53歳で亡くなった相米慎二監督の軌跡がアメリカ・ニューヨークで蘇っている。 日本文化を紹介するジャパン・ソサエティーで、グローバス映画シリーズ「相米慎二の世界:不朽の青春」(Rites of Passage: The Films of Shinji Somai)と題した相米氏の映画祭が、5月13日まで開催中。 厳しい演出で役者の持つ力を発揮させることに長けたと評される相米氏。薬師丸ひろ子、永瀬正敏、河合美智子、工藤夕貴、牧瀬里穂など多くの才能を発掘してきた。 その中でも特筆すべきは、81年の薬師丸ひろ子主演の大ヒット作『セーラー服と機関銃』だろう。同作(完璧版)がニューヨークで上映された4月29日、チケットは売り切れ、会場は満員御礼の人気ぶりだった。 同作は女子高生(今で言うJK)の泉がヤクザの親分になる奇想天外なストーリーで、身勝手な大人社会に放たれた怒りが表現されている。 一番の見せ場は後半、泉が機関銃を乱射する、あの時代を生きた者なら誰もが知るシーン。時が止まったかのような特徴的なサウンドとモーションの中、一世を風靡したセリフ「快感(カイ・カン)」が放たれる。現代においては物議を醸すであろう過激なアクションシーンは当時の日本でも大きな話題となった。 またマリリン・モンローよろしく泉がセーラー服にヒール姿で雑踏を歩き、人々に囲まれ、地下から吹き上がる風でスカートがめくれ上がるシーンも印象的だった。相米氏が何を伝えたかったのか、その思惑をあれこれ妄想させる。 劇場に足を運んだほとんどのローカルの人は、相米氏や薬師丸氏の名声も知らなければ、この映画があの時代の日本人の心を引きつけたことも、さらには「こ〜のまま〜何時間でも〜抱いていたいけど〜」*のメロディも知らない。そんな中、何人かに感想を聞いたら、受け止めはさまざまだった。 旅行をしたことがあったとしても、ケータイもネットもない時代の日本の風景は、さぞや新鮮に映っただろう。何人かは「よかった」「興味深い映画だった」と評価した。「機関銃のシーンは受け止めが難しい」という声もあった。東京に6年住み日本語を流暢に話すアメリカ人も第一声で「興味深かった」と言った。その一方話をよく聞くと「コンテキストで理解するのが難しかった」とも。「おじん」など死語のせいかと思いきや、言葉の問題ではないらしい。 「80年代の日本を知らないので、話の流れのツァイトガイスト(その時代の思想や問題などから考えること)が難しく、監督が言わんとしていることがわからなかった」 作品はアメリカ向けに作られたものではないし、当時の状況や文化背景を知らないとこの映画の真骨頂はやや伝わりづらいのかもしれない。ということは、若い世代の日本人が観ても同様の感想になるのだろうか?(当時を知る筆者はヒット曲が懐かしく、また「快感ブーム」になったあのシーンを見届けられただけで満足だったが) 相米氏の没後20年となった2021年には特集上映イベントが組まれ、リアルタイムで相米作品を知らない世代の若者が劇場に詰めかけ、人気が再燃したと伝えられている。主催のジャパン・ソサエティーによると、日本国外のファンの間でも相米作品は「再び人気となり、作品について再評価がされている」という。 今回の期間中は、『セーラー服と機関銃』の完璧版と初公開版、『台風クラブ』『ラブホテル』『ションベン・ライダー』『魚影の群れ』『東京上空いらっしゃいませ』『光る女』がラインナップされている。5月5日には『光る女』に出演したMonday満ちる(秋吉満ちる)氏も、上映会に特別ゲストとして登場する予定だ。 注: * 1981年の大ヒット曲。曲名『セーラー服と機関銃』、歌手:薬師丸ひろ子、作詞:来生えつこ、作曲:来生たかお Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース 個人「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)無断転載禁止