母犬リリィがパピーミルから救出されたあの日、彼女の第二の人生が始まった ── 。 ペットショップの可愛い子犬をたくさん産まされてきたお母さん犬と戦争で国を追われたウクライナ家族の奇跡の出会いの物語 (前編を見る)
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NYでペット販売を規制…パピーミルから救出された保護犬のその後(前編)
欧米のペットのトレンドは「売らない・買わない」 15日、ニューヨーク州のキャシー・ホークル知事が、州内のペットショップでの犬、猫、ウサギの販売を禁止する法案に署名した。6月に同法案が議会で可決され、知事の署名を待つばかりの状態だった。 欧米で犬や猫を「店で売らない・買わない」が主流となりつつある中、この法令化は、乱繁殖させる子犬生産場のパピーミル(Puppy mills)とペットショップのパイプラインの遮断を意味する。 州内のペットショップでは、アニマルシェルターからのアダプション(養子縁組)先を見つける目的で、これらの動物の展示については許可されるが、2024年からこれらの動物の販売ができなくなる。 ホークル知事は同日記者団に「それらの動物は愛情のある飼い主により人道的な扱いを受けるに値する。この法律は惨たらしい動物の扱いを減らし、動物福祉を保護するための有意義な措置となる」と述べた。 知事が言う「惨たらしい扱い」とはどういったものか? ペットショップで売られている可愛い子犬。 その子犬の親がどのように飼育され、子犬を生まされているか知っていますか? 子犬生産場=パピーミルの実態 「惨たらしい扱い」を受けたある母犬。救出された「その後」 先日筆者は、アメリカのペットショップで売られている子犬の悲惨な現状と、その元凶であるパピーミルへの反対運動についてレポートした(下記)。 筆者はその取材で、パピーミルの母犬や捨て犬の救出活動をしているボランティアに同行し、ニュージャージーの救出団体へ向かった。そして、殺処分される直前にパピーミルから命からがら救出された母犬についても記事の中で触れた。 関連記事 ボランティアが1匹を連れ帰り、里親が見つかるまで面倒を見るという。しかし車内でも自宅でも、四六時中日陰の暗くて狭い隙間にうずくまったまま出てこない。精神が完全にやられているようだ。その様子を見て、いかにこの犬がこれまで悲惨な環境で生きてきたのか、パピーミルの現場を見なくとも容易に想像でき、いたたまれない気持ちになった。 あの日、救出された1匹の母犬には、感動的なストーリーの「続き」があった。 一体何匹の子犬を生まされたのか… 母犬リリィの物語 筆者が同行したパピーミルの救出活動で、ボランティアをする知人が、飼い主が見つかるまで面倒を見ると連れて帰ることになった小型の繁殖犬も、全体的に汚れていて表情も冴えない。 これまで、パピーミルの狭くて糞尿だらけの不潔極まりないケージの中で飼育されてきたのだから当たり前と言えば当たり前だが、体全体がとにかく不潔で、まったく手入れされていないから毛も爪も伸び放題。目やにがこびり付いていて、歯も汚く、(後日医者に診てもらってわかったことだが)音が聞こえにくいほど耳垢もたっぷり詰まっていた。 救出されたすべての繁殖犬がその有様だ。パピーミルでは出産時、子犬を温めるための暖房器具が設置されていて、中には火傷の跡が胴体にある母犬もいた。 これからニューヨークに連れて帰る小型犬は、目やにの奥に光る無垢な瞳に、一筋の希望が残されているようだった。 帰りの車内で、皆でその犬をリリィと名付けた。当時エリザベス女王が逝去したばかりで世の中はそのニュースであふれていて、女王のあだ名であるリリベットにあやかろうということになった。 我々はリリィも連れてその足で、イギリス出身の友人家族が主催するバーベキューパーティーへ向かった。 パピーミルで酷い扱いを受け人間不信になったであろうリリィは、車内でもひっそりと身を潜めた。車のシートの下の奥深いスペースに潜り込み、まったく出てこようとしない。一言で言えば「根暗」。その姿を見て筆者はなんともいたたまれない気持ちになり、正式なファミリーが見つかるまで自分が面倒をみてあげたいという気になった。 リリィがわちゃわちゃした明るい性格だったら恐らくそんな気持ちにはならなかっただろう。人は時に、自分がいなくても生きていけそうな逞しさより、ここで今自分が救いの手を差し伸べなければ存在が消えてしまうのではないかと思えるほどの脆弱なものに心を奪われるもの。 到着したバーベキュー会場のバックヤードにリリィを連れて行っても、来客が連れてきたほかの飼い犬と混じり合うことなく、隅に置かれたベンチの下の狭くて暗い場所にひっそりと身を潜めた。頭をこちら側ではなく壁側に向け、何時間もじっと動かない。死んでしまうのではと心配になり、1人がドッグフードを与えてもまったく食べようとしない。語らずともこの犬がどれほどの扱いを受け、精神的、肉体的に痛めつけられてきた人生を送ってきたかを物語っていた。 夜も更け、筆者は一足先に帰宅することになった。ボランティアの友人が帰るときに、リリィを一緒にうちまで連れてきてほしい旨を伝えた。 帰宅後、リリィのベッドを置くためのスペースを室内に確保し、到着を今か今かと待っていた。「汚れているから一度シャワーを浴びせようかな。お湯は嫌がるだろうけどしょうがない…」。そんなことを考えていたら、しばらくして電話がかかってきた。そして思いもよらぬことを告げられる。 「リリィは来ないよ」 「え、どういう意味?」 「犬を飼いたいという人が現れた。ウクライナ人家族」 「え???」 そういえば、バーベキューの主催者の階下には、ウクライナから今年避難して来た4人家族が住んでいて、パーティーにも顔を出していた。 「彼らがリリィを飼いたいんだって」 (後編につづく) (トップ写真)パピーミルから救出された保護犬。表情もどこか冴えない。(c)Kasumi Abe Text, photos and video by Kasumi Abe(Yahoo!ニュース 個人より一部転載)無断転載禁止
可愛い子犬がどこから来たか知っていますか?米ペットショップで犬を買うことが敬遠される理由
美しい毛並み、澄んだ瞳、フリフリと愛嬌良く揺れるしっぽ。ペットショップで見かけた愛らしい子犬に一瞬で心を奪われてしまった……。そんな経験は、きっと誰でもあるだろう。 しかしその可愛いペットが一体どこからやって来たものなのかまでを考える人は何人いるだろうか。 ペットショップで見かけたその可愛い子犬は、もしかして「パピーミル」出身かもしれない。信じがたい犬の苦しみの真実を、アメリカからレポートする。 パピーミルとは「乱繁殖させる劣悪な子犬生産場」 子犬生産場という意味のパピーミル。ペットショップで販売するための営利目的用に、子犬を無責任に量産させる悪徳業者だ。 彼らは犬や猫などの小動物を狭いケージに入れたまま、散歩に連れて行かず、与えるものといえば安価で栄養のない粗悪な食べ物。そして糞尿まみれの不潔極まりない飼育環境で子を産ませるだけ産ませて、不要になったら捨てる。 「用無し」と見なされるのは、子犬を産むことができなくなった親犬、買い手がつかないような見てくれの良くない犬、障害を持った犬などだ。それらの犬はアニマルシェルター(保護施設)に持ち込まれる場合もあるが、基本的にはパピーミルによって安楽死させられる。 アーカンソー州のパピーミルから犬が救出される様子 このようなパピーミルは全米におよそ1万軒あるとされる。東海岸ではペンシルベニア州に集中し、そのほとんどはここに古くから住むアーミッシュ*の人々によって運営されている。生計を立てるためであり、彼らに取ってそれは農業より簡単で手取り早く収益化できる方法だ。 *アーミッシュ:現代においても電気や電話、インターネットなど現代技術を生活に導入することを拒み、農耕や牧畜など近代以前と同様に自給自足の生活を(可能な限り)営んでいる宗教集団。 パピーミルのような劣悪な飼育環境や処分という名の廃棄は動物虐待の1つと見なされる。動物愛護の思想は知識層の間でますます広まっており、アメリカをはじめとする先進諸国では、パピーミルの運営に反対する声が高まっている。しかし法律の規制がなかなか進まないため、今も不当な運営を続けるパピーミルやペットショップが存在するのも現状だ。 進まぬ法改正の傍でまずは人々の意識改革から着手しようと、毎年この時期を「パピーミル啓発デー(Puppy Mill Awareness Day)」とし、全米でパピーミルへの抗議活動や消費者に対する啓発イベントが行われる。 悲惨なペットの現実を人々に知らしめたいと、イベントでは犬を飼いたい人に対して、ペットショップでの購入ではなく保護施設のアニマルシェルターやレスキュー団体からアダプト(保護、引き取り)することを奨励している。 ペンシルベニア州でこのイベントを取り仕切るのはキャロル・アラネオ-メイヤー(Carol Araneo-Mayer)さん。支持者や賛同者の協力の下、イベントで人々にパピーミルの現実を啓蒙し、彼らが処分しようとする犬を引き取って新たな飼い主を探す活動をしている。19年前にこれらの活動を始めるきっかけは、レスキュー団体に引き取られた捨て犬の「現実」を知ったことから。 「多くはペットショップの売れ残り、もしくはさまざまな理由で飼育放棄され行き場のない犬たちで、しかも彼らはもともとパピーミルから来たものと知りショックを受けました」 キャロルさんによるとそのような犬の多くは虐待による心の傷があり、精神的な問題を抱える行動が見られるという。 「パピーミルで飼育された犬は適切な医療措置を受けておらず、粗末なフードや飲み水しか与えられていないので不健康です。母犬に十分な栄養や社会生活が与えられていないのですから、生まれた子犬の体も弱く不健康です」 不要になって捨てられた犬の救出先で見た、精神を病む犬 別の日、パピーミルから救出した犬の引き取りをするボランティアに同行し、キャロルさんも関わるニュージャージー州のレスキュー団体、アダプト・ア・ペット(Adopt A Pet)へ向かった。 この日救出された犬は、5~9歳の5匹。彼らはパピーミルで役に立たなくなるまで飼育され、挙句の果てに捨てられる寸前のところを救出された。子犬は売れ行きが良いため市場に出される。よって中には産後6週間で子犬から離された母犬もいた。どの犬も手入れされていないから綺麗とは言い難い。肥大化した乳首もお腹の肉も垂れ下がっている。火傷の跡のようなものがある犬もいた。 里親探しのボランティアをしているアンドレア・スティンセン(Andrea Steensen)さんによると、救出されたこれらの犬はまだラッキーな方で、救出できない犬もいる。 別のボランティアの知人がここから1匹を連れ帰り、里親が見つかるまで面倒を見るという。しかし車内でも自宅でも、四六時中日陰の暗くて狭い隙間にうずくまったまま出てこない。精神が完全にやられているようだ。その様子を見て、いかにこの犬がこれまで悲惨な環境で生きてきたのか、パピーミルの現場を見なくとも容易に想像でき、いたたまれない気持ちになった。 以前パピーミルから来た犬を引き取ったことがある松村京子さんは、その犬と対面した時をこう振り返る。 「緊張で体がガチガチに固まり異常に怯えていました。虐待されていたのでしょう。どうかせめて自分だけでも信用を得ようと必死に面倒を見ました。心を開いてくれるまで1年くらいかかりましたが、最後はかけがえのない家族の一員になりました」 なかなか進まぬ法規制 「問題は人々がペットの命に対して責任を持っていないことにある」と言うのは、パピーミルの劣悪な飼育環境に異を唱える団体、United Against Puppy Millsの代表、ジャッキー・キーニー(Jackie Keeney)さん。 ジャッキーさんによると、パピーミルの運営業者への州法規制を強め、飼育環境の改善を求めているが、無登録&覆面で運営しているパピーミルも存在するといい、法規制や改善には時間がかかっているのが現状だ。 「法律が変わるのは時間がかかりますから、まず人々への啓蒙から始めています」と言うのはStop Online Puppy Millsの代表、ジェイニー・ジェンキンズ(Janie Jenkins)さん。犬を飼いたいと思っている人が良い選択ができるよう、ジェイニーさんはパピーミルの現状を伝える活動をしている。 運営を始めてかれこれ9年。当初と比べて店舗での販売は減ったが、代わりにオンライン販売が増えていると言う。 「子犬がどれほど劣悪な環境から来たか、親犬がどんな環境で飼育され、産まされているかを知ることは大切です。それを知らずして、命ある生き物がまるでモノのようにボックスに入れられ、配達されるなんてことはあってはならないことです」 「ペットを買わない」世界で高まる機運 動物愛護は、世界中で関心が高まっている。 アメリカではカリフォルニア、イリノイ、メリーランドなど5州においてペットショップでの犬猫などの店頭販売が禁止されている。ニューヨーク州では今年6月、同様の法案(パピーミル・パイプライン法案:Puppy Mill Pipeline Bill)が州議会で可決され、州知事の署名を待つばかりだ。一方で大きな財源を失うとして、ペットショップの経営者からは法案への署名に反対するロビー活動が起こっている。 フランスでは2024年から、ペットショップなど店舗での犬猫の販売が法律で禁止される。飼いたい場合はブリーダーからの直接購入やアニマルシェルター(保護施設)からの引き取りなどに限られる。 ペットを飼いたい場合はどうする? ペットを飼いたい場合、捨てられた犬や猫を一時保護するアニマルシェルターやレスキュー団体でのアダプト(保護、引き取り)が推奨されている。血統書付きの犬にこだわる場合は、愛情を持ってきちんと育てる環境を整えたブリーダーを利用すると良い。正当なブリーダーかどうかの判断は、アメリカでは「AKC(American Kennel…