ロシア拘留のブリトニー・グライナー裁判のゆくえ 

【速報】米東部時間4日朝、ブリトニー・グライナー選手はロシアでドラッグ所持と密輸の罪で有罪判決となり、禁錮9年の判決が下されました。 違法薬物所持容疑でロシアで勾留されている、米WNBA(女子プロバスケットボールリーグ)のブリトニー・グライナー(Brittney Griner)選手。その裁判が、モスクワ郊外の裁判所で先月より始まっている。 出廷したグライナーさんは、被告人席として設けられた狭い檻の中に入れられるなど、初公判後もショッキングな映像が映し出されている。グライナー選手と言えば、オリンピックで2個の金メダルを獲得したアメリカの大スター選手だが、2月の拘束以来、手錠をかけられた姿がメディアに映し出され、(欧米諸国にとっては)まるで重罪人のような扱いを受けている。 グライナーさんは裁判で先月、カンナビス(大麻)の抽出オイル(Hashish oil、Hash oil、ハシシオイル)を含むベープカートリッジを、自身のカバンの中に所持していたことは認めた。しかしそれらは鎮痛剤として使用していたもので、娯楽目的でもなければ法を犯す意図もなかったと、通訳を通じて述べた。 弁護団は、グライナーさんが所持していたカンナビスについて、痛みを和らげるために医師から処方された医療用大麻だと主張した。2メートル以上の長身を武器にしている同選手は、練習や試合中に体全体でぶつかり合うことが多く、脊椎、足首、膝を怪我し、何ヵ月もの間、車椅子を使用するほど症状が悪かったという。2013年より所属しているフェニックス・マーキュリーは、本拠地アリゾナ州において同選手が医療用としてカンナビスを使用するのを許可していた。 グライナーさん自身はそれを薬としてロシアに持ち込んだわけではなく、急いで荷造りしたため無意識のままカバンに入れたという。ただしカンナビスは、ロシアでは違法薬物にあたる。 グライナーさんは法廷で、モスクワの空港で逮捕に至った経緯についても触れ、税関の関係者に呼び止められた際の通訳が「不完全」で、自分の権利が守られなかったと主張した。正しい説明なしに書類に署名をするように強制され、いったいどのような書類なのか理解できないまま署名してしまったという。 関連記事 ロシアが東京五輪金の米スター選手、ブリトニー・グライナーを拘留 裁判が想像以上に深刻な理由 「なぜスポーツ選手は薬物を痛み止めに使うのか」有力紙の見解 娯楽用のみならず医療目的のための使用について、アメリカではたびたび議論の対象となるマリファナ。グライナー選手の拘留により、再びその是非が問われている。 ニューヨークタイムズは「Why Pros Like Brittney Griner Choose Cannabis for Their Pain」(なぜブリトニー・グライナーのようなプロ選手が鎮痛のためにカンナビスを使うのか)という記事の中で、以下のように述べている。 米国務省は、グライナーさんについて「ロシアによる不当拘束」という見解を示しているが、マリファナは米連邦レベルでは違法薬物のままで、何千人もの人々がマリファナの使用または販売のために刑務所に入れられている。 その一方で、数十の州が医療用または娯楽用としてマリファナを合法化しているのもまた事実。とりわけ日頃から肉体を酷使し年中怪我をしがちなスポーツ選手にとって、体の傷や痛みを癒す「効用」も認められており、それらを医療用として合法化するようスポーツリーグや政治家への働きかけが行われている。 実際にカンナビスを治療のために使用しているプロのスポーツ選手はグライナーさんだけではなく「多くのアスリートは、医師が処方してきた中毒性のあるオピオイドや類似の薬よりマリファナの方がよっぽど健康的だと信じている。またそのようなプロスポーツ選手からは、グライナーさんの拘留について哀れみの声と、ロシアに対しての批判が多く上がっている。 メジャーリーグは? 米スポーツ界のマリファナ使用ルール 以上のような効用を鑑み、一部のプロスポーツリーグでは、その使用に関する罰則方針について、近年再検討されつつある。 NBA(プロバスケットボールリーグ) 使用に関する違反が繰り返された場合のみ、出場停止処分となる。「グライナー選手がリーグに復帰しても、WNBAから処分を受けることはない」と関係者の声。 MLB(プロ野球リーグ) 2019年、選手の禁止薬物リストからマリファナを削除した。ただし、飲酒運転などと同様に法律を犯して使用した場合や、選手として試合や練習中に使用した場合、懲戒処分を受ける可能性がある。 NFL(プロフットボールリーグ) 2020年、使用に関する方針を緩和し、制限された量の使用を許可した。一方で、制限を超える量の使用に関しては選手に罰金を科したり、出場停止処分にすることもある。 NHL(プロホッケーリーグ) 選手に対してマリファナ検査を行うが、陽性結果になったからといってペナルティを科すことはない。 (参照:ニューヨークタイムズ) 捕虜交換となるか?今後の裁判の行方 現在、グライナーさんは捕虜のような扱いでロシアに拘束されている。アメリカ政府はグライナーさんのほかにも、2018年にスパイ容疑で16年の刑期が言い渡されロシアで服役中のアメリカ国籍保持者、ポール・ウィラン(Paul Whelan)氏の釈放も正式に打診した。 ブリンケン国務長官の声明 ロシア側からの具体的な回答は得られていないものの、アメリカが釈放を望んでいる2人のアメリカ市民と引き換えに、アルカイダとタリバンに武器を売ったとされる武器商人や殺人者など2人のロシア人受刑者の釈放をロシア側は求めてくるだろうと見られている。またそれが叶えられない限りは、受刑者交換を拒否するだろうとも伝えられている。 トランプ氏の辛辣な意見 トランプ前大統領は先月末、出演したラジオ番組で、重罪を犯したロシア人受刑者との交換に難色を示した。 グライナー選手について「ドラッグが好きではなく、ドラッグに対して非常に警戒している敵対的な領土にドラッグを積んで行き、捕まった。その結果、殺人者と武器商人との交換が交渉されようとしている」「潜在的に甘やかされた人だ」と、脇が甘いとも取れるグライナーさんの行いについて辛辣に非難した。 交渉上手で隙がなく、またアルコールやドラッグに関して人一倍自制をしていることで知られるトランプ氏らしい発言だ。 グライナーさんは有罪判決が下された場合、懲役10年の刑になる可能性もある。ウクライナ情勢に纏わり緊張がますます高まるアメリカとロシア間で、グライナーさんとウィランさんの釈放に関して、今後どのような「人質外交」が行われていくだろうか。 参照 Why Pros Like Brittney Griner…

ロシアが東京五輪金の米スター選手、ブリトニー・グライナーを拘留 裁判が想像以上に深刻な理由

不穏な空気が漂うロシアで、思わぬ著名人が4ヵ月もの間、拘留されている。WNBA(女子プロバスケットボールリーグ)に所属するブリトニー・グライナー(Brittney Griner、31)選手だ。 事の発端は2月17日。同選手はロシアに入国するため、モスクワのシェレメーチエヴォ空港で入国手続きを受けていた。そこで、所持品から同国では違法薬物にあたるハシシオイル(*)が見つかり、ロシア当局に拘束された。 (*ハッシュオイル、大麻オイルとも呼ばれる。英語表記:hashish oil、hash oil) 拘留は、この4ヵ月で4回延長され、少なくとも今年12月までとなっている。しかし判決次第では、懲役10年の刑に服することになるかもしれないのだ。その初公判がモスクワ市郊外の裁判所で、7月1日から始まる。 この間アメリカに残っている妻は、ブリトニー氏とまったく連絡が取れない状態という。2019年に結婚したシェレル・グライナーさんは、拘留以降、電話連絡の手続きさえできない状態だとし、ロシアの米国大使館に助けを求めている。アメリカの国務省は「不当な拘束」として、ロシアに釈放を要求しているが、両国関係はウクライナ情勢を巡り緊張しており、ロシア側に解放する動きは見られない。 27日に行われた予備審問では、手錠をかけられまるで重罪人のような扱いを受け、見せつけられている同選手のショッキングな写真も公開された。 ブリトニー・グライナー選手とは? (*日本語記事ではブリトニー・グリナーとも表記されている) グライナーさんはWNBAのスター選手で、女子バスケチームのアメリカ代表だ。米女子バスケはオリンピックで通算9個の金メダルを獲得し、東京オリンピック2020の決勝戦でも、日本代表を破り見事金メダルを獲得、7連覇を達成した。 同選手は、そんな強豪チームを金メダルに導いた立役者の1人だ。6フィート9インチ(約206センチ)の高長身を武器にした豪快なプレーが特徴だ。東京五輪の日本チームとの決勝戦などで、記憶に残っている人も多いのではないだろうか。 インスタグラムでは、2019年に同性婚をした妻シェレルさんとの仲睦まじい様子が公開されていた。しかし今年2月5日で更新が止まっている。 なぜロシアへ? 「なぜわざわざロシアへ入国?」と疑問が湧くかもしれないが、彼女は2015年以降、WNBAのオフシーズン中にロシアンプレミアリーグでプレーしていた。これまで何度もロシアに入国し、同国の事情を知っていたはずなのに、このタイミングで逮捕、拘留となってしまった。2月17日といえば、ロシアによるウクライナ侵攻が始まるちょうど1週間前のことで、今とは状況が異なる。侵攻が開始するとロシア国内で活動していたアメリカ人選手は国外退避したが、タイミング悪くグライナー選手だけが、ロシアに足止めされることとなった。 ハシシオイルとは? 同選手が所持していたハシシオイルとは、濃縮されたカンナビス(キャナビス、大麻草、Cannabis)の抽出オイル。大麻植物に由来し、THCの含有率は最大90%。陶酔感を引き起こし、痛みや炎症を和らげるのに役立つという点で、マリファナとほぼ同じものとして使用されているようだ。ロシアでハシシオイルの所持や使用は違法ということのようだ。 → カンナビスって? 過去記事 ストレスや不眠に効果のある大麻草成分「CBD」が大ブーム ニューヨーク最前線 「見せしめ裁判」と専門家 ABCの朝のニュース番組『Good Morning America』に出演した法律アナリスト(法的な分析を得意とする専門家)は、手錠をかけられた同選手の予備審問での映像を観て「まるで危険な凶悪犯罪者のような扱い」と、疑問を投げかけた。 「これは正当な裁判ではない。見せしめ裁判(見世物裁判とも呼ばれる。英語表記:Show Trial)である」と分析。 見せしめ裁判は、報復としてのプロパガンダとして執り行われる。ロシアで見せしめ裁判と言えば、モスクワ裁判を想起させる。1936年から38年にかけてソビエト連邦政府が当時の最高指導者ヨシフ・スターリンの扇動で国外に広く公開した司法裁判。スターリンによる大粛清を国際的に正当化する意味を持った。 つい今月も、ウクライナ東部の親ロ派、ドネツク人民共和国の最高裁判所が、戦闘中に捕虜になったウクライナの外国人義勇兵(イギリス人2名、モロッコ人1名)に、死刑判決を言い渡している。これも見せしめ裁判だ。 法律アナリストは番組で、グライナー選手について「アメリカのスターであり、オリンピックヒーローです。そんな彼女がカンナビスオイル所有でまるで殺人犯のような扱いを受け、懲役10年の刑が下される可能性もある。ポリティカルプリゾナー(政治的に投獄される受刑者)として見せつけられているのです」と説明。今後は(まるで捕虜のように)第三国で服役中のロシア人受刑者との交換や、人質としてアメリカに圧力をかける道具に利用される可能性もあると示唆した。 米メディアよると、ロシアの刑事裁判で被告が無罪になるのは1%未満という。またアメリカとは異なり、ロシアでは無罪判決になっても覆される可能性がある。 グライナー選手の裁判は複雑でより深刻になっていきそうだ。アメリカ政府はロシアとどのようなトレードをしていくのか、慎重に交渉していくことが求められている。 Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース 個人より一部転載)無断転載禁止