ロシア拘留のブリトニー・グライナー裁判のゆくえ 

【速報】米東部時間4日朝、ブリトニー・グライナー選手はロシアでドラッグ所持と密輸の罪で有罪判決となり、禁錮9年の判決が下されました。 違法薬物所持容疑でロシアで勾留されている、米WNBA(女子プロバスケットボールリーグ)のブリトニー・グライナー(Brittney Griner)選手。その裁判が、モスクワ郊外の裁判所で先月より始まっている。 出廷したグライナーさんは、被告人席として設けられた狭い檻の中に入れられるなど、初公判後もショッキングな映像が映し出されている。グライナー選手と言えば、オリンピックで2個の金メダルを獲得したアメリカの大スター選手だが、2月の拘束以来、手錠をかけられた姿がメディアに映し出され、(欧米諸国にとっては)まるで重罪人のような扱いを受けている。 グライナーさんは裁判で先月、カンナビス(大麻)の抽出オイル(Hashish oil、Hash oil、ハシシオイル)を含むベープカートリッジを、自身のカバンの中に所持していたことは認めた。しかしそれらは鎮痛剤として使用していたもので、娯楽目的でもなければ法を犯す意図もなかったと、通訳を通じて述べた。 弁護団は、グライナーさんが所持していたカンナビスについて、痛みを和らげるために医師から処方された医療用大麻だと主張した。2メートル以上の長身を武器にしている同選手は、練習や試合中に体全体でぶつかり合うことが多く、脊椎、足首、膝を怪我し、何ヵ月もの間、車椅子を使用するほど症状が悪かったという。2013年より所属しているフェニックス・マーキュリーは、本拠地アリゾナ州において同選手が医療用としてカンナビスを使用するのを許可していた。 グライナーさん自身はそれを薬としてロシアに持ち込んだわけではなく、急いで荷造りしたため無意識のままカバンに入れたという。ただしカンナビスは、ロシアでは違法薬物にあたる。 グライナーさんは法廷で、モスクワの空港で逮捕に至った経緯についても触れ、税関の関係者に呼び止められた際の通訳が「不完全」で、自分の権利が守られなかったと主張した。正しい説明なしに書類に署名をするように強制され、いったいどのような書類なのか理解できないまま署名してしまったという。 関連記事 ロシアが東京五輪金の米スター選手、ブリトニー・グライナーを拘留 裁判が想像以上に深刻な理由 「なぜスポーツ選手は薬物を痛み止めに使うのか」有力紙の見解 娯楽用のみならず医療目的のための使用について、アメリカではたびたび議論の対象となるマリファナ。グライナー選手の拘留により、再びその是非が問われている。 ニューヨークタイムズは「Why Pros Like Brittney Griner Choose Cannabis for Their Pain」(なぜブリトニー・グライナーのようなプロ選手が鎮痛のためにカンナビスを使うのか)という記事の中で、以下のように述べている。 米国務省は、グライナーさんについて「ロシアによる不当拘束」という見解を示しているが、マリファナは米連邦レベルでは違法薬物のままで、何千人もの人々がマリファナの使用または販売のために刑務所に入れられている。 その一方で、数十の州が医療用または娯楽用としてマリファナを合法化しているのもまた事実。とりわけ日頃から肉体を酷使し年中怪我をしがちなスポーツ選手にとって、体の傷や痛みを癒す「効用」も認められており、それらを医療用として合法化するようスポーツリーグや政治家への働きかけが行われている。 実際にカンナビスを治療のために使用しているプロのスポーツ選手はグライナーさんだけではなく「多くのアスリートは、医師が処方してきた中毒性のあるオピオイドや類似の薬よりマリファナの方がよっぽど健康的だと信じている。またそのようなプロスポーツ選手からは、グライナーさんの拘留について哀れみの声と、ロシアに対しての批判が多く上がっている。 メジャーリーグは? 米スポーツ界のマリファナ使用ルール 以上のような効用を鑑み、一部のプロスポーツリーグでは、その使用に関する罰則方針について、近年再検討されつつある。 NBA(プロバスケットボールリーグ) 使用に関する違反が繰り返された場合のみ、出場停止処分となる。「グライナー選手がリーグに復帰しても、WNBAから処分を受けることはない」と関係者の声。 MLB(プロ野球リーグ) 2019年、選手の禁止薬物リストからマリファナを削除した。ただし、飲酒運転などと同様に法律を犯して使用した場合や、選手として試合や練習中に使用した場合、懲戒処分を受ける可能性がある。 NFL(プロフットボールリーグ) 2020年、使用に関する方針を緩和し、制限された量の使用を許可した。一方で、制限を超える量の使用に関しては選手に罰金を科したり、出場停止処分にすることもある。 NHL(プロホッケーリーグ) 選手に対してマリファナ検査を行うが、陽性結果になったからといってペナルティを科すことはない。 (参照:ニューヨークタイムズ) 捕虜交換となるか?今後の裁判の行方 現在、グライナーさんは捕虜のような扱いでロシアに拘束されている。アメリカ政府はグライナーさんのほかにも、2018年にスパイ容疑で16年の刑期が言い渡されロシアで服役中のアメリカ国籍保持者、ポール・ウィラン(Paul Whelan)氏の釈放も正式に打診した。 ブリンケン国務長官の声明 ロシア側からの具体的な回答は得られていないものの、アメリカが釈放を望んでいる2人のアメリカ市民と引き換えに、アルカイダとタリバンに武器を売ったとされる武器商人や殺人者など2人のロシア人受刑者の釈放をロシア側は求めてくるだろうと見られている。またそれが叶えられない限りは、受刑者交換を拒否するだろうとも伝えられている。 トランプ氏の辛辣な意見 トランプ前大統領は先月末、出演したラジオ番組で、重罪を犯したロシア人受刑者との交換に難色を示した。 グライナー選手について「ドラッグが好きではなく、ドラッグに対して非常に警戒している敵対的な領土にドラッグを積んで行き、捕まった。その結果、殺人者と武器商人との交換が交渉されようとしている」「潜在的に甘やかされた人だ」と、脇が甘いとも取れるグライナーさんの行いについて辛辣に非難した。 交渉上手で隙がなく、またアルコールやドラッグに関して人一倍自制をしていることで知られるトランプ氏らしい発言だ。 グライナーさんは有罪判決が下された場合、懲役10年の刑になる可能性もある。ウクライナ情勢に纏わり緊張がますます高まるアメリカとロシア間で、グライナーさんとウィランさんの釈放に関して、今後どのような「人質外交」が行われていくだろうか。 参照 Why Pros Like Brittney Griner…

ロシアが東京五輪金の米スター選手、ブリトニー・グライナーを拘留 裁判が想像以上に深刻な理由

不穏な空気が漂うロシアで、思わぬ著名人が4ヵ月もの間、拘留されている。WNBA(女子プロバスケットボールリーグ)に所属するブリトニー・グライナー(Brittney Griner、31)選手だ。 事の発端は2月17日。同選手はロシアに入国するため、モスクワのシェレメーチエヴォ空港で入国手続きを受けていた。そこで、所持品から同国では違法薬物にあたるハシシオイル(*)が見つかり、ロシア当局に拘束された。 (*ハッシュオイル、大麻オイルとも呼ばれる。英語表記:hashish oil、hash oil) 拘留は、この4ヵ月で4回延長され、少なくとも今年12月までとなっている。しかし判決次第では、懲役10年の刑に服することになるかもしれないのだ。その初公判がモスクワ市郊外の裁判所で、7月1日から始まる。 この間アメリカに残っている妻は、ブリトニー氏とまったく連絡が取れない状態という。2019年に結婚したシェレル・グライナーさんは、拘留以降、電話連絡の手続きさえできない状態だとし、ロシアの米国大使館に助けを求めている。アメリカの国務省は「不当な拘束」として、ロシアに釈放を要求しているが、両国関係はウクライナ情勢を巡り緊張しており、ロシア側に解放する動きは見られない。 27日に行われた予備審問では、手錠をかけられまるで重罪人のような扱いを受け、見せつけられている同選手のショッキングな写真も公開された。 ブリトニー・グライナー選手とは? (*日本語記事ではブリトニー・グリナーとも表記されている) グライナーさんはWNBAのスター選手で、女子バスケチームのアメリカ代表だ。米女子バスケはオリンピックで通算9個の金メダルを獲得し、東京オリンピック2020の決勝戦でも、日本代表を破り見事金メダルを獲得、7連覇を達成した。 同選手は、そんな強豪チームを金メダルに導いた立役者の1人だ。6フィート9インチ(約206センチ)の高長身を武器にした豪快なプレーが特徴だ。東京五輪の日本チームとの決勝戦などで、記憶に残っている人も多いのではないだろうか。 インスタグラムでは、2019年に同性婚をした妻シェレルさんとの仲睦まじい様子が公開されていた。しかし今年2月5日で更新が止まっている。 なぜロシアへ? 「なぜわざわざロシアへ入国?」と疑問が湧くかもしれないが、彼女は2015年以降、WNBAのオフシーズン中にロシアンプレミアリーグでプレーしていた。これまで何度もロシアに入国し、同国の事情を知っていたはずなのに、このタイミングで逮捕、拘留となってしまった。2月17日といえば、ロシアによるウクライナ侵攻が始まるちょうど1週間前のことで、今とは状況が異なる。侵攻が開始するとロシア国内で活動していたアメリカ人選手は国外退避したが、タイミング悪くグライナー選手だけが、ロシアに足止めされることとなった。 ハシシオイルとは? 同選手が所持していたハシシオイルとは、濃縮されたカンナビス(キャナビス、大麻草、Cannabis)の抽出オイル。大麻植物に由来し、THCの含有率は最大90%。陶酔感を引き起こし、痛みや炎症を和らげるのに役立つという点で、マリファナとほぼ同じものとして使用されているようだ。ロシアでハシシオイルの所持や使用は違法ということのようだ。 → カンナビスって? 過去記事 ストレスや不眠に効果のある大麻草成分「CBD」が大ブーム ニューヨーク最前線 「見せしめ裁判」と専門家 ABCの朝のニュース番組『Good Morning America』に出演した法律アナリスト(法的な分析を得意とする専門家)は、手錠をかけられた同選手の予備審問での映像を観て「まるで危険な凶悪犯罪者のような扱い」と、疑問を投げかけた。 「これは正当な裁判ではない。見せしめ裁判(見世物裁判とも呼ばれる。英語表記:Show Trial)である」と分析。 見せしめ裁判は、報復としてのプロパガンダとして執り行われる。ロシアで見せしめ裁判と言えば、モスクワ裁判を想起させる。1936年から38年にかけてソビエト連邦政府が当時の最高指導者ヨシフ・スターリンの扇動で国外に広く公開した司法裁判。スターリンによる大粛清を国際的に正当化する意味を持った。 つい今月も、ウクライナ東部の親ロ派、ドネツク人民共和国の最高裁判所が、戦闘中に捕虜になったウクライナの外国人義勇兵(イギリス人2名、モロッコ人1名)に、死刑判決を言い渡している。これも見せしめ裁判だ。 法律アナリストは番組で、グライナー選手について「アメリカのスターであり、オリンピックヒーローです。そんな彼女がカンナビスオイル所有でまるで殺人犯のような扱いを受け、懲役10年の刑が下される可能性もある。ポリティカルプリゾナー(政治的に投獄される受刑者)として見せつけられているのです」と説明。今後は(まるで捕虜のように)第三国で服役中のロシア人受刑者との交換や、人質としてアメリカに圧力をかける道具に利用される可能性もあると示唆した。 米メディアよると、ロシアの刑事裁判で被告が無罪になるのは1%未満という。またアメリカとは異なり、ロシアでは無罪判決になっても覆される可能性がある。 グライナー選手の裁判は複雑でより深刻になっていきそうだ。アメリカ政府はロシアとどのようなトレードをしていくのか、慎重に交渉していくことが求められている。 Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース 個人より一部転載)無断転載禁止

今週だけで一千億円! ゼレンスキー大統領の米議会演説後スピード発表の「莫大な追加支援」

ウクライナのゼレンスキー大統領は16日、アメリカの連邦議会でオンライン演説を行った。1日に欧州連合(EU)、8日にイギリス、15日にカナダの議会でもオンラインで演説をし、ウクライナへの更なる援助を求めてきた。日本の国会での演説も打診中であると伝えられている。 ゼレンスキー大統領は米連邦議会で、真珠湾攻撃(1941年)や同時多発テロ(2001年)といった過去にアメリカが受けた空からの壊滅的な攻撃を引用し、ウクライナ上空の飛行禁止区域の設定や、戦闘機の追加支援などを米国議会に求めた。 筆者によるオーサーコメント またバイデン大統領に対しては「世界平和のリーダーになってほしい」と呼びかけた。 ホワイトハウスのプライベート・レジデンス(私邸)で演説を聞いていたというバイデン大統領は、演説から4時間後の同日午後1時過ぎより、記者団に対してこのように発表した。 「説得力のある重要な内容だった。情熱的なメッセージに感謝したい」 「世界はウクライナへの支援と、プーチンに多大なる代償を払わせるという決意で団結している」 バイデン大統領によると、アメリカがウクライナへの支援を開始したのは昨年3月。ロシア軍がウクライナ国境沿いで軍事演習を開始したため、6億5000万ドル(約773億円)分の対空装備を含む兵器などを支援した。この支援金額はかつてアメリカが提供してきたものをはるかに超えるものだ。「したがってロシアによる武力侵攻が始まった際、ウクライナはすでに対抗するために必要な武器を備えていた」と、バイデン大統領は述べた。 そして今年2月の戦争開始と共に、ウクライナが求める対空システムや輸送用ヘリコプターなどのため、3億5000万ドル(約416億円)分の追加支援を行ったことも明かした。「これらの支援によりウクライナ軍が、ロシア軍からの壊滅的な損失を(最小限に)防ぐことができた」。 さらに今月12日、バイデン政権は2億ドル(約238億円)を承認したばかりだったが、今回のゼレンスキー大統領による演説後、8億ドル(約950億円)を新たに拠出するとした。 つまり今週(の発表)だけでも、アメリカがウクライナに対して提供する安全保障支援装備への総額は、10億ドル(約1190億円)相当に上る。 また、ウクライナが求める武器や対空システムのほかに、3億ドル(約357億円)分の食料や水、医薬品などといった人道支援も行い、この数週間でウクライナと周辺諸国の人々に提供されてきたという。 バイデン大統領は、ゼレンスキー大統領が求めたウクライナ上空の飛行禁止区域の設定について言及しなかったものの、新たに拠出する支援には、空からの攻撃に対抗する800の対空システムなどが含まれており、「民間人を攻撃している戦闘機やヘリコプターを制御し、ウクライナの空域を守ることができる」と述べた。 Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース 個人より一部転載)無断転載禁止

日本のユニクロ、米スタバやマクドナルド…「ロシア離れ」決断したこれだけ多くの多国籍企業(一覧)

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって2週間が経った。 その制裁措置として、ロシア事業からの相次ぐ撤退の動きは、欧米企業が率先して進めている。ユニクロも当初表明していたロシアでの事業方針を一転し、21日よりロシア国内にある全50店舗の営業と電子商取引(EC)サイトを休止するという。 これらの発表と共に、一部の店舗では駆け込み客による長い列ができているようだ。 9日付のニューヨークタイムズは、ロシアでの事業の停止や縮小などを発表したアメリカを含む多国籍企業の動向を、以下のように紹介している。 ◎ 食品業界 米系企業 スターバックス(Starbucks) (クウェートのアルシャヤグループが所有、運営する)ロシア国内の全店舗の閉鎖を発表 マクドナルド(McDonald) ロシア国内の約850店舗の一時閉鎖を発表 レストラン・ブランズ・インターナショナル(Restaurant Brands International) バーガーキングやポパイズなど、人気ファストフードチェーンを展開する米国とカナダの合弁企業。ロシアの現地フランチャイズ加盟店が運営する約800の店舗に対する企業サポートと今後の投資の停止を発表 Mars(マーズ) チョコレート商品「M&M’s」や「スニッカーズ」などを製造・販売する同社は、ロシアでの新規投資の停止を発表 ペプシコ(PepsiCo) 「ペプシ」「ドリトス」「トロピカーナ」などを製造・販売する食品、スナック、飲料企業。ロシア国内での飲料食品の販売停止を発表したが、「人道的な取り組み」とし、乳製品や離乳食製品の生産を継続するという ヤム・ブランズ(Yum! Brands) 大手ファストフード企業。ロシア国内に所有する約70店舗の「KFC」と約50店舗のフランチャイズ経営の「ピザハット」の閉鎖を発表 そのほか ハイネケン(Heineken) オランダ発のビール会社。ロシアでのビールの製造、販売、宣伝活動の停止を発表 カールスバーグ(Carlsberg) デンマーク発のビール会社。ロシア事業への投資と販売の停止を発表。グループ会社であるロシアの「バルティカブルワリー」社は別事業として運営を継続する ◎ 小売業界 米系企業 ナイキ(NIKE) ロシア国内116店舗での販売停止を発表。しかし発表から1週間経つもまだ店舗は稼働中で、完全閉鎖まで1ヵ月は要する模様。アウトレット商品を扱う「ファクトリーストア」はすでに一時閉鎖中との情報 ティージェイエックス(TJX) 大手小売チェーン「T.J.マックス」や「マーシャルズ」の運営で知られる同社は、ロシア国内に400以上の店舗を展開する小売チェーン「ファミリア」の株式所有権の売却を発表 フィリップモリス(Philip Morris) 創業は英国だが、本社を米国、統括本部をスイスに置くたばこ企業。投資計画を一時停止し、ロシアでの製造の削減を発表 そのほか ユニクロ(Uniqlo) (前述) イケア(IKEA) スウェーデン発の家具メーカー。ロシアとの輸出入の停止を発表するも、「ロシア国内の顧客が必需品にアクセスできるように」とし、主要ショッピングセンターチェーン「MEGA」での店舗運営は継続予定という エイチ・アンド・エム(H&M) スウェーデン発のアパレルメーカー。ロシア国内170店舗での販売停止を発表 カナダグース(Canada Goose) カナダ発のアパレル企業。ロシアへの卸売とECサイトでの販売停止を発表 アディダス(Adidas) ドイツ発のシューズ、スポーツ系アパレルメーカー。ロシア国内と周辺国に約500店舗を展開するが、ロシアでの販売停止を発表 ユニリーバ(Unilever) 「ダヴ」「サンシルク」「ラックス」「リプトン」など400以上の食品や家庭用品(洗剤・ヘアケア・トイレ用品など)のブランドを190ヵ国で展開する英国発の企業。ロシアとの輸出入の停止を発表 ブリティッシュ・アメリカン・タバコ(British American Tobacco) 「ケント」「クール」「ラッキー・ストライク」などを展開する英国発のたばこ企業。ロシア事業からの撤退を発表…

筆者が見過ごせないとコロナ禍で渡航までした理由ジュネーブで見た米ロ首脳会談【現地ルポ】

6月に入り、ニューヨークに住む筆者のもとにある「お知らせ」メールが届いた。申請の締め切りは、会談日からわずか5日前。パンデミックが収束していない中での渡航に不安がなかったと言えば嘘になる。しかし、世界の主要リーダーが顔を合わせる滅多にない機会を見逃したくない一心で、気づけば着の身着のままで現地に飛んだ。 行き先はスイスのジュネーブ。16日に、アメリカのバイデン大統領とロシアのプーチン大統領の初の首脳会談(U.S. – RUSSIA Summit)が執り行われた。 両氏の会談といえば、バイデン氏が副大統領時代の2011年、プーチン氏とモスクワで握手を交わし、大統領に就任後も2度、電話会談をしている。しかしバイデン氏は、伝えたいことに誤解がないよう「実際に会って対話する重要性」を改めて強調していた。そして今回の大統領同士の初の直接対話が実現となった。 この会談をどうしても見過ごせなかった理由 この会談を見過ごせなかった理由は、2国間のみならず今後の世界情勢の鍵を握る重要な会合だったから。スイスの外務省にあたるFDFAよりメディアセンターの席が用意され、ワクチン接種済みの記者特例として到着後の隔離も免除されたのだから、行かないという選択肢はなかった。 言わずもがな、アメリカとロシアの関係は良くない。一触即発の状態だ。 ç±³NBCが会談直前に行ったインタビューでも、プーチン大統領自らが「ここ数年で最悪の状態」と認めた。「両国ほど核ミサイルを発射する準備ができているところはない」(タイム誌)のだから、さらなる関係悪化によって世界情勢が大混乱に陥る可能性も否定できない。アメリカの同盟国である日本にとっても、対岸の火事ではない。 特に近年、さまざまな問題をめぐって緊張がさらに高まっていた。双方が相手国の大使を追放するきっかけとなった(ロシアが関与していると見られている)相次ぐサイバー攻撃をはじめ、米大統領選の介入疑惑、また核軍縮など安全保障、ハバナ症候群、中国、中東、ウクライナとの関係、人権問題や制裁などについて双方の言い分は対立している。 会談に先立ち、米各紙や専門家の多くは悲観的だった。「両氏はサミットに警戒」(USAトゥデイ)、「双方は、軍事的脅威から人権問題まで困難な議題に向き合うだろう」(ニューヨークタイムズ)などと、冷え切った関係改善は容易ではないことを匂わせた。 会談前、大統領として初の欧州歴訪中だったバイデン氏は、「世界の民主主義の結集」と表現するG7やNATOのリーダーたちと直接対話をし、「パンデミックからの復興」と「より良い世界の再建」のために各国と連携することを改めて確認。同盟国のバックアップがあることを強調していた。 関係性を「最悪の状態」と認めたプーチン氏は一方で、言葉の端々に両国関係の問題解決のための共同作業をする「準備」ができていると、意欲もうかがわせていた。 会談当日 この会談では通例とは異なることがいくつかあった。1つは、遅刻魔のプーチン大統領が、時間通りに現れたこと。 プーチン氏の各国トップ陣を待たせるのは有名な話で、エリザベス女王を14分、トランプ前大統領を1時間近く、安倍前首相を2時間半、メルケル首相を4時間以上待たせたことも…。 筆者は事前に、プーチン氏がロシアからジュネーブ空港に到着するのは当日の午後12時30分で、日帰りするという情報を掴んでいたのでこの日も遅れるかと思いきや、予定時間に到着したので拍子抜けした。 この「遅刻なし」についてワシントンポストによると、事前に両国で示し合わせていたそうだ。プーチン氏にとって遅刻、つまり相手を待たせる行動は、自分が心理的に優位に立てる戦略の1つ。だが、今回の相手は強国アメリカだ。バイデン氏を会場で待たせるようなことがあってはならぬと、プーチン氏に先に会場入りしてもらうよう交渉がなされていた。 通例とは異なる2つ目は、会談後の記者会見が合同ではなく個別で行われたこと。CNNによると「米大統領5人と会談してきたプーチン氏にとって、合同記者会見で有利になることが多かった」。アメリカ側は今度こそ不利な立場を避けたいと、個別会見を提案したようだ。 これについて、メディアセンターへの道すがらに出会った、英語のニュースサイトで働くスイス人記者ミッシェルさんはこのように言った。 「バイデンにとっては個別会見は正解だった。あの年で8日間の欧州歴訪はタフだろう。前日エアフォースワン(大統領専用機)から降りる時の表情も疲労が滲み出ていた。一方日帰りのプーチンは気力が有り余っているだろうから合同会見はフェアとは言えない」 バイデン氏がジュネーブに到着した日の夜に筆者が乗ったタクシーの運転手も、運転手間でバイデン氏の気分が優れず病院を探している(いた?)と教えてくれた。信憑性については不明だが、筆者の目にも確かにバイデン氏は疲れているように見えたので心配だった。そして翌日はにこやかに会談に現れたので安心した。 プーチン氏の会見から見える会談内容 ワシントンポストによると、会談の期待値がそもそも低く設定されていたため、双方はいくつかの問題で「やや前進」という嬉しい余韻を残しながら、予定より早く終了したという。当初は5時間以上の可能性もあると見る米メディアもあったが、会談自体は3時間ほどだった。 合意内容は、核軍備管理に関する長期的かつ戦略的な対話の開始、サイバーセキュリティに関する専門家会議の開催、互いの国から追放された大使を再び戻す方針など、すでに多くのメディアで報じられている通りだ。双方が歩み寄った成果として評価すべきだろう。 筆者は会談後、プーチン大統領の通訳を介した記者会見をメディアセンターで聞いた。アメリカが重視したサイバー攻撃問題についての記者からの質問に「ロシアの関与はない」と改めて否定し、「逆に我が国へのサイバー攻撃のほとんどはアメリカからだ」と反論。ナワリヌイ氏や人権について聞かれた際も、アメリカのBLM運動や銃撃事件などを引き合いに出し「それらの人権はどうなのだ?」と批判した。ロシアでの民主化デモの参加者に対する取り締まりについては、1月に起こった議会議事堂襲撃事件の抗議者の逮捕と比較した。(バイデン氏はこれらの比較に首を傾げている) バイデン大統領がロシアとの関係で望んでいる、「安定した予測可能な関係」について、プーチン大統領はNBCのインタビューで「国際問題において最も重要なこと」と同調していた。実際にはそんな関係をロシアが阻止していると言われていることに対して、プーチン氏は「アメリカも国際社会の基盤を破るように条約や協定から離脱し、予想外のことをしている」と、厳しい表情で返すシーンも見られた。 バイデン氏からプレッシャーを感じたかと問われ、「アジェンダを設定する以外にプレッシャーはなかった」とプーチン氏。バイデン氏の印象については「政治経験が豊富で建設的な人」と表現し、リラックスしたフランクな会話がなされ「プロダクティブ(生産的)な会合になった」と評価した。 ほかにも、より安全な世界のための自然(気候変動問題)や海洋保護、新型コロナ対策や児童の健康について、議題はさまざまな分野に及んだという。ビジネスの話だけではなく、バイデン氏が母親の話をしてくれたエピソードも語った。 プーチン氏は記者の質問への反論後も「問題解決のために、両国は共同作業をしていかなければならない」「バイデン氏と話をし、合意することは可能だと感じた」と、歩み寄る姿勢を示した。 もしかするとプーチン氏の秀でた話術や交渉術の1つなのかもしれないが、狡猾で荒唐無稽なことを言っているだけの独裁者のようには聞こえなかった。また会談前の両首脳の記念撮影の際、リラックスして少し微笑んで座っているバイデン氏と、彼の表情を何度か一瞥するプーチン氏が印象的だった。 米ロ2国は「対立」「敵対関係」などと表現されることが多いが、会談後に公開されたオフィシャルの写真からは、直接対話で生まれた人間模様も垣間見ることができる。 「安定した予測可能な関係」実現するか? 会談前に双方が伝え合った「生産的な会談を期待」(プーチン氏)や「異論がある時、予測可能で合理的に伝え合う」(バイデン氏)などは、有言実行された。 バイデン氏は個別会見で、会談の目的:(1)両国の利益のため世界のために、何をするべきかをはっきりさせる。(2)直接コミュニケーションをする。合衆国として同盟国の利益を損なうことには責任持った行動をとる。(3)双方が優先することや価値観をはっきりとさせる ── を果たしたことを明言。そして「自分が今やる事はやった。1年以内に、重要な戦略的対話が実際に行われているかどうかわかるだろう」と言い、今後も協力し合える関係になるはずと期待を寄せた。 両首脳がこの日会った際のボディランゲージも興味深かった。まずバイデン氏が先に手を差し出し、それに応える形でプーチン氏が大きく歩み寄り、しっかりと握手を交わした。まるでこの会談自体のアウトラインのような光景だ。 少なくともこの会談により「最悪の事態」は阻止できた。関係改善への第一歩を踏み出したと期待したい。 各国首脳会談 関連記事 過去のボディランゲージ 安倍・トランプ初の日米首脳会談。握手の仕方でわかる上下関係 2018年米朝首脳会談 世界のトランプを前に緊張を隠せなかった若き独裁者、金正恩 Text and some photos by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース 個人より一部転載)無断転載禁止