【米中間選挙】NY投票所内に入ってみた。当日の様子、有権者の声

アメリカで8日、中間選挙が行われた。 大統領就任の翌年に行われることから、現政権に対する国民の評価が大きく影響し、2年後の大統領選挙を占う上でも重要な選挙だ。記録的なインフレや治安悪化などの諸問題を背景に、野党・共和党が連邦議会の上下両院で過半数に迫る勢いで、与党・民主党との激しい競り合いとなっている。 この日筆者は有権者に話を聞くため、ニューヨーク市内の投票所内の様子を見に行った。 筆者が訪れたのは、マンハッタン区東ミッドタウンの投票所。通常は公立小学校だが、この日は休校で、体育館が投票所として使われていた。 まず受付があり、すぐそばに通訳スタッフも待機。「スペイン語、中国語、韓国語など多言語でのサポートが法律で決められています」と、ニューヨーク市選挙管理委員会のエグゼクティブディレクター、マイケル J.ライアン氏。このように、市民権を得たばかりの人も初めての投票で困らない配慮がある。また警官が投票所ごとに1人ずつ配備され、安全が守られている。 来ている人々の年齢層は、お年寄りからZ世代と思しき若者までさまざまだ。3ヵ月の赤ちゃんを抱っこ紐で抱えた若い女性もいた。 話を聞こうと投票を終えた何人かに声をかけたところ、人々は足早に立ち去り、今回も取材拒否者が続出した。ニューヨーカーは取材を申し出るとオープンにあけすけに話してくれる傾向があるが、いざ話題が政治や選挙となると人々の表情は途端に硬くなる。 コメントをかろうじて聞くことができたとしても、写真撮影NGで匿名を希望する人は多い。これまで選挙戦のたびに当地で行った取材で、筆者は何度もそのような人を見てきた。友人家族には、余計な摩擦を排除するため、伴侶がどちらの政党に投票したかをあえて話さない夫婦もいるほどだ。 投票所内での撮影は、有権者の顔が映る場合は本人の許可を得るなど最大の配慮をしたが、取材陣が近くにいるだけで拒絶感を露わにする年配の男性もいた。 人々のこの日に賭ける真剣さが伝わってくるようだった。 「投票用紙の上から下まですべて青色(民主党)に投票しました」と言うのは、起業家のローズ-マリー・ホワイトローさん(63)。この中間選挙がいかに重要かについて、「この国が将来、民主主義を貫くか、それとも狂信者やキリスト教国粋主義者による泥棒政治、独裁政治の国に堕落していくのかを決めるものです」。上・下院共に民主党が多数派を占めることになったとしても「選挙の正当性を巡り対立は深まり、混乱は続くでしょう。シンバブエ、ロシア、ハンガリーのような選挙になってはなりません」。 保守派でリバタリアンというジョセフ・サンダースさん(74)は、保守路線として共和党候補に投票した。「民主党政権がこの2年間でもたらした悲惨な現状」が、彼を投票所へと駆り立てたと言う。特に問題と感じるのは「移民対策や治安悪化、フェンタニルによる死亡やMS-13、インフレ、対中国・ロシア・北朝鮮・イランへの我が国の脆弱化した外交政策、粗末なアフガニスタン撤退劇、胎児の殺害(中絶擁護)」。 「郵便投票やコンピュータ操作による不正選挙はあったと信じている」とサンダースさん。よって民主的な選挙結果にはあまり期待は持てないようだが、「それでもより多くの資本主義支持の候補者が勝つ希望を私はまだ持っています」。 公務員のエリザベスさんは、民主党支持を表明。「今回の中間選挙が特に重要なのは、中絶権は女性の命にかかわることだからです」と語る。バイデン大統領の掲げる政治議題を支持している彼女は、議会で民主党過半数の維持を期待する一方、「国の和解も見たい」と言った。 「異なる意見に対して敬意を持って聞き、共通の基盤を見つけ、民主的な方法で同意できるようになることができたらというのが私の願いです」 関連記事 Text and photos by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース 個人より一部転載)無断転載禁止

米中間選挙迫る。勝利の鍵は? 米専門家はどう見ているか

アメリカでは11月8日に投開票される中間選挙まで2週間を切り、26日外国メディアを対象にブリーフィングが行われた。 世論調査の専門家および選挙アナリストのジョン・ゾグビー(Dr. John Zogby)氏が登壇し、今後の行方を解説した。世論調査会社ゾグビー・ストラテジーズ(Zogby Strategies)のシニアパートナーである同氏は、ニューヨークタイムズ、NBC、フォーブス、ハフポストなど米主要メディアで選挙アナリストも務める。 選挙の傾向としてゾグビー氏は、有権者は自分の支持しない政党が勝ったら「世も末」と悲観することから(2000年以降は)「アルマゲドン選挙」と表現する。今回の選挙は、アルマゲドン化(二大政党の対極化)がさらに悪化しているようだ。 これまでは誰もが同意する共通の問題があり二大政党はそれについて双方から闘ってきたが、近年はまったく異なる政策を掲げる2つの政党がまったく異なる問題に直面。「太陽の周りを別々の軌道で公転する2つの惑星のように」対極していることが特徴だという。 分断が進む選挙の行方について、専門家はどう見ているだろうか? 問題が山積みで「国民は非常に不機嫌」… 選挙の行方は? 同社が伝える最新の世論調査では、国が「正しい方向に進んでいる」と答えた人は24%、「間違った方向に向かっている」と答えた人は70%以上に上る。世論調査の数字については「勝敗を予測するものとして捉えるのではなく、現段階の立ち位置や有権者の気分のトレンドを示すツール」とした上で、「全体的にこの国の有権者は現状に満足しておらず、非常に不機嫌な状態と言える」とゾグビー氏は表現する。現状を打破させるために投票所に向かう人も多そうだ。 国が抱える大きな問題について、ゾグビー氏は「インフレーション」「犯罪率と治安悪化」「移民問題」の3つを主に上げた。これらの問題により有権者の決断が揺さぶられることで「共和党に有利に働きうることは十分考えられる」とゾグビー氏は見る。 中でも有権者を悩ませている最大の問題は、昨年から加速している深刻なインフレだ。今年6月には消費者物価指数(CPI)が9%を超え、41年ぶりの高水準となった。その後も8.9%、8.3%と高水準を示している。 原油の高騰によりガソリン、生活費、食費などあらゆる物価が高騰し、人々は生活を圧迫されている。賃金も引き上がってはいるがインフレに追いついていない状態だ。 中でも車社会の必需品、ガソリン価格の急騰は顕著だ。今年6月には1年前と比べて48%も上昇し、1ガロン(3.8リットル)あたり平均5ドル(当時の為替で約670円)を突破した。 その後ガソリン価格は下落傾向にあるものの依然として高い。また、経営者を対象とした最新の世論調査では、回答者の74%が半年から1年以内に景気後退を予想しており、先行きは暗い。 「記録的な高インフレを食い止められなかったのは民主党にとって不利だが、少しの希望があるとすれば、それはインフレ率の上昇が食い止められたことだろう」(ゾグビー氏、以下同) このような価格変動や景気の動向に有権者がどれだけ揺さぶられるかが、選挙の結果に大きな影響を与えそうだ。 ほかに、民主党に有利に働くポイントとして、昨年の議事堂襲撃事件や「盗まれた選挙」の陰謀論に代表される「民主主義への危機感」や「中絶の権利」への対応も挙げられる。 「プロチョイス(中絶の合法化の支持派)の有権者、若い世代、子供を持つ母親、郊外在住の女性の層が民主党の大きな後押しとなるかもしれない」とゾグビー氏。ただし、これらの支持派は一定の層に限られる。 一方、先述のインフレは、“ほぼすべての人”に影響を与えている問題であることから、「インフレや経済の問題が選挙の勝敗を分ける最大の争点になるだろう」とゾグビー氏は断言する。 関連記事 インフレに加え、共和党に有利となりそうな要素はほかにもある。 治安悪化の現状だ。犯罪者に甘いとされる民主党の磐石、ニューヨークでも近年犯罪数が激増し、深刻な社会問題となっている。ゾグビー氏によると、1994年の中間選挙でも、激増した犯罪数が選挙の争点となったことがあった。選挙の結果は、共和党が数年ぶりに上下両院の支配権を取り戻した。 移民問題も深刻だ。メキシコとの国境に壁を建設するなど厳しい移民対策を掲げたトランプ前政権だが、バイデン政権下では中南米から大量の移民(難民希望者)が押し寄せ、社会問題となっている。夏以降は、南部テキサス州やフロリダ州などからワシントンD.C.やニューヨーク、シカゴなどに移民が大量に移送され、非常事態宣言が出されている。 このような現政権の政策の失敗も、民主党への槍玉に挙げられている。 また、選挙戦の行方に影響する有権者の層として、ラテン系や黒人票の影響力は無視できない。 「一般的にラテン系、黒人、女性、特に若い世代の有権者の投票率が高くなると、民主党に有利とされていて、中でも影響が大きいのはラテン票」とゾグビー氏は説明する。 見逃せない「ラテン票」の動向 2010年と14年に行われた中間選挙で民主党が大打撃を受けた理由の1つは、ラテン系の投票率が低かったことだった。逆に18年の中間選挙では、多くのラテン票が投じられたことで、民主党に大きな勝利を導いた。 これまでの調査から、ラテン系有権者の50%強が民主党に、約40%が共和党に投票し、残りの人は「未定」(Swing Voters、どちらの政党に投票するか揺れている、決めかねている=浮動票)と見られているが、近年の彼らは保守派を自認し、以前よりも共和党に投票する傾向が見られるという。 「ベネズエラ、キューバ、ニカラグア出身の人々は社会主義や独裁政権と闘って国を離れた人々。歳を重ねた今、やっとこの国で有権者となった。そんな彼らは(労働者階級を中心に)確実に共和党に投票するだろう」 そして今年のラテン票は、バイデン大統領の功績を認めている人と認めていない人にはっきり二分していることが特徴という。「未定」(Swing Voters、スウイングボーターズ)の人々は民主党にとって脅威になりそうだ。 一部の例外を除き、一般的に民主党寄りとされる黒人有権者については、「民主党が勝利するには黒人の90%が票を民主党に投じることを期待されているが、今年の調査では多くの人がどちらに投票するかは未定(Swing Voters)と回答している」と言う。また若い黒人層の有権者の間で共和党寄りが増えつつあるというのは、近年の特徴だという。これらも選挙戦の行方を左右する要素の1つとなりそうだ。 地方有権者については、典型的な有権者の20%は地方に住み、共和党支持者が多いとされている。自分の住む州がプロライフ(中絶の合法化に反対派)になったので、投票所に行く動機や必要性がないと感じている有権者も少ないが増えている。これも選挙の結果には影響しうる。 ゾグビー氏はこれまで、選挙戦の争点となるスウィングステーツ(激戦州)で、非常に多くの接戦を何度も見てきたと言い、「両党共にクロスレース(互角)です」と言う。 この2日後の28日、ペロシ下院議長の夫が自宅で男にハンマーで襲われる事件も起こるなど、残りの2週間で何が起こるかわからないため、長年選挙アナリストを務めている同氏とて「11月8日の結果は予測不可能」と強調する。 「民主党の大きな後押しになりそうな女性の有権者にしても、彼女たちにとって中絶の権利に関する問題が投票を決める大きなきっかけになるか、それともインフレの方が切実な問題なのか。それは現段階で誰にもわかりません」 国民の審判が下るのももうすぐだ。 まとめ 共和党に有利に働きそうな要素 インフレ(打撃を受けている大多数の層、労働者階級から支持) 治安悪化 移民問題 ラテン系有権者の支持の増加 民主党に有利に働きそうな要素 議事堂襲撃事件に代表される、民主主義への危機感 中絶の権利の対応(女性から支持) 自分の住む州がプロライフで、インフレの打撃を受けていない層は選挙に行く動機が見つからない 過去記事 Text by…