「このままでは中国が」岸田首相のアフリカ歴訪前、米副大統領も。日米がアフリカに近寄らざるをえないワケ

岸田首相がアフリカ4ヵ国を歴訪し、その成果が伝えられた。 今回のアフリカ訪問で、首相はエジプト、ガーナ、ケニア、モザンビークを訪れた。19日から広島で始まるG7サミットを視野に入れたもののようだ。グローバルサウス(新興国・途上国)はロシアとの関係が深く、G7と距離を置く国も少なくない。「サミット前にグローバルサウスとの関係強化の狙いがあった」と、日本のメディアで伝えられた。 アフリカ訪問と言えば、実はアメリカもカマラ・ハリス副大統領がつい先ごろ歴訪したばかりだ。 ハリス氏は今年3月26日から1週間かけてガーナ、タンザニア、ザンビアの3ヵ国を訪れた。 米要人が立て続けにアフリカ訪問 ハリス氏だけではない。ここ数ヵ月の間にアントニー・ブリンケン国務長官、ファーストレディのジル・バイデン氏、ジャネット・イエレン財務長官、米国の国連大使のリンダ・トーマス-グリーンフィールド氏といった要人中の要人が、アフリカ諸国を次々に訪問している。 これだけの要人が立て続けにアフリカを訪れる理由は何だろうか。ニューヨークタイムズでその理由が詳しく解説された。 4月6日付のポッドキャストでは、出演した記者が「最大の理由は中国だ」と述べた。アフリカ大陸において中国に多くの地位を譲ってしまったことへのアメリカの焦りが感じられるという。どうやら「このままではまずい」ということのようだ。 ハリス氏のアフリカ歴訪の表向きの理由は、アフリカ大陸への投資と発展促進への約束だが、一番伝えたかったシンプルなメッセージは、「あなた方の友人は中国ではない。我々アメリカなんですよ」ということらしい。 3月27日付の記事、In Africa, Kamala Harris Looks to Deepen Relations Amid China’s Influence(中国の影響力が広がる中、ハリス氏はアフリカとの関係を深めようとしている)でも、同様の見方が伝えられた。 ここ数年、アフリカのリーダーたちは西側諸国からデモクラシーについての教義を受けるのではなく、国同士が強固に繋がり合うことで貿易面や経済面での利益を求めている。そこに出てきたのが中国だ。 中国は過去20年間にわたり、アフリカ諸国へ多額の投資やインフラの構築の支援を行い、彼らにとって主要な貿易相手国にのし上がった。 記事によると、2019年ガーナ政府は高速道路の建設を含む数十億ドル規模のインフラ投資と引き換えに、中国がボーキサイト鉱石を採掘することを許可した。またタンザニアのサミア・スルフ・ハッサン大統領は昨年11月、中国の習近平国家主席と会談し、中国がタンザニアの農産物により多くアクセスできるよう複数の経済およびインフラ協定や、中国による22億ドル(約2900億円)の鉄道協定に調印した。新型コロナのパンデミックにより債務不履行に陥ったザンビアは、同国にとって最大の債権国である中国と「特別な関係」を築くことを約束した。 このように中国側は、アフリカ諸国の援助に心血を注いでいる。「中国外相が毎年初訪問する国はいつもアフリカだ。小さな国々でさえ中国が熱心にそつなく寄り添う姿勢を見せている」。またアフリカの学生に対して、教育奨学金の提供も行う。「このように築かれた関係性は強固で、彼らにとって中国は掛け替えのない需要なパートナーになった」と、専門家の意見が添えられた。 バイデン政権も「未来はアフリカである」と認識しているが、今その未来を握っているのは中国の方だ。このようにアフリカ大陸での中国のプレゼンスの高まりの中、アメリカもまんまと引っ込んでばかりはいられない。 アフリカ諸国の安全保障のため、1億ドル(約130億円)規模の援助を発表し、バイデン政権は来年度の予算にガーナへの1億3900万ドル(約180億円)の財政支援を盛り込む予定だ。 中国が重点を置いているインフラ構築は現地の人に日常使いされる橋、空港、ダムなど「わかりやすいもの」だ。一方、アフリカ諸国でのアメリカの焦点は、内戦が続くソマリアでテロと戦うためのインフラの構築など、テロリズムと治安面での対処に移行している。アメリカと違い、中国の支援は人権問題や労働条件、環境保護など関係なしに無節操に行われる。この点でもアメリカはアフリカにおいてより不利な立場にある。 記事によると、中国がアフリカに関与し始めたのは1999、2000年辺り。中国は自国企業に国外進出と投資を奨励。それは中国が必要としていた鉱物資源を中国に持ち帰ることにもつながった。そのようにして中国とアフリカは強固な関係で結ばれたのだ。 2013年、中国は現代版シルクロードとして野心的なインフラ・プロジェクト、一帯一路構想(Belt and Road Initiative)を発表した。特にアフリカでは都市と農村をつなぐ高速道路や鉄道の建設を進めており、中国はアフリカのみならず世界中にこのプロジェクトを拡大することを目指している。 アメリカがここ数ヵ月で高官を派遣することを決めざるをえなくなったのは、「今、手を打たないとまずい」と思ったからだ。 その判断のきっかけは、ロシアのウクライナ侵攻だった。 ロシアにウクライナからの撤退を求めた国連総会決議では、アフリカの多くの国が棄権、不参加、一部が反対を表明した。多くの国が、何が正しく何が間違いかを表明することに消極的になっており、アフリカ諸国の多くのリーダーは、この戦争を自分たちの戦争や自分たちの問題ではないと考えている。であるから、今後も彼らにとっては大切な盟友、中国やロシアとの取引は継続するだろう。 アメリカにとって、アフリカとの関係は一筋縄ではいかない理由はほかにもある。人権問題の一つ、LGBTQや同性愛者の権利はバイデン政権がサポートし推し進めようとしているものだが、記事によると、ザンビア、ガーナ、タンザニアを含むいくつかのアフリカ諸国では逆の方向、つまりそれらの権利が脅かされる動きがあるという。ガーナのナナ・アクフォ-アド大統領との記者会見で、これらについて尋ねられたハリス氏は、「問題を提起した」と述べるに留まり、誰とどの国でという詳細の言及はなかった。 ザンビアで21年に就任したばかりのハカインデ・ヒチレマ大統領は、アメリカ寄りでアメリカが介入できる機会になるかもしれないという期待もある。だが、アフリカ諸国にとって東側諸国、西側諸国どちらか一方と仲良くすることは国策として賢明ではないという見方もあり、国の利益と発展のために両勢力とバランスを取りながらより良いディール(取引)を選択し、発展していくのではないだろうか。西側諸国として日本、アメリカ、共に今後も粘り強くアフリカとの関係性を築いていく必要があるだろう。 Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース 個人「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)無断転載禁止

オフレコの差別発言で首相秘書官が更迭 「もし米国だったら?」記者の立場で考察

性的少数者(LGBTQ)や同性婚に対しての差別的な発言をし、更迭された荒井勝喜首相秘書官。オフレコを前提にした取材の場だったとは言え、岸田政権を支える人物による差別発言は到底許されるものではない。筆者もこの発言をスクープした毎日新聞の記事を読んでショックを受けた。 一方で、「オフレコでの発言」が大きく報じられてしまったことに引っかかったというのも事実だ。毎日新聞の別の記事によると、その場には報道各社の記者約10人が参加していたようだ。その中で同紙がオフレコのルールから外れ、スクープしたことになる。 筆者はアメリカで記者をしているので、これがアメリカなら…と考えてみた。アメリカでは通常、オフレコ発言は一般公開されず、オフマイク発言はそれほど重視されない。 発言がオフレコであったことが影響してか、米主要メディアでの報道は今の所それほど多くなく、岸田首相が更迭したというニュースや日本での同性婚の実情についてウォール・ストリートジャーナルやAP、ヤフーニュースなど一部のメディアが報じるに留まっている。 通常であればResign(辞任)という言葉が並ぶのであろうが、本件のヘッドラインにはFire(クビ、解雇)という強い言葉が並んでいる。そのようなところからも、岸田政権による「日本政府はいかなる差別発言も容認できない」という強いメッセージを感じた。 過去記事 オフレコではないが、「オフマイク」発言がアメリカで重視されなかった例 もしホワイトハウスにおいて、オフレコの発言が記事化されるなどメディアとしてのルールが守られなかったり、愚問が出たり、度が過ぎる攻撃的な態度を見せたりするメディアや記者は、プレスパスが無効になったり更新ができなくなる。いわゆる出禁だ。ホワイトハウスでなく一般の取材なら、情報源から今後お呼びがかからなくなるだろう。 ホワイトハウスのブリーフィング(定例記者会見)の場というのは、当然だが一般の人は入れない。記者の中でも、ホワイトハウス特派員という主要メディアの選ばれし精鋭だけが、報道官の担当者から「許可」を受け、中に入れてもらっている。記者席はたったの49席しかない。そこにどのくらいの記者が出席希望を出しているかは情勢によって日毎変わるが、トランプ前政権下の2017年にエスクァイア誌が報じた記事によると、数千の応募があった。49席に対してこれだけの参加希望があるのだから、ホワイトハウス側からすると、一部の記者を出禁にしても広報的に何ら問題はないと考えるのが普通だろう。 ◉ホワイトハウスがメディアや記者を出禁にした事例 以上はニュースになった一部であり、質問を独占したり、愚問や攻撃とも取れる質問をした記者は、こっそりプレスパスのリストから排除されている。 過去記事 筆者は日本とアメリカ両国で記者をして20年以上になるが、どちらの国でも「オフレコで」と言われることはたまにある。 オフレコにはいくつかの種類がある。 など。これらに加え、写真や動画撮影もオフレコ、オンレコとあり、事前に取り決めた上で取材をする(何も言われない場合はオンレコ)。 例えばつい数日前にニューヨーク市内で行った不動産の取材では、事前にインタビュイーのコメントはオフレコを通達された(上記(1)の事例)。「記事で引用するコメントはすべてメールで答えるので当日のコメントは引用しないで」と言われ、了承した上で取材をした。正直オフレコを求められるのは面倒なことではあるのだが、面会が実現できるのは相手あってのことだし、実際に会い(現場に行き)写真を撮影したり同じ場の空気を吸うだけでも十分価値があると判断したものであれば、先方の希望には敬意を払って承諾し、オフレコの約束は守る。録音もしない。 上記(4)の場合は、インタビュー中に「今から申し上げることはオフレコなんですが」とか「今言ったことは書かないでください」と言われるケースだ。この場合も筆者は記事に書かない。録音データもすぐに削除する。 筆者がオフレコを記事にしないのは、信用問題に関わるからだ。インタビュアーとインタビュイーとの間には、明文化されていなくても暗黙の信頼関係があって取材が成り立っているが、相手の意向に反して発言を引用したり、写真や動画をこっそり撮影(盗撮)したり、断りもなく録音したりしていると、相手との信頼関係は崩れていく。信頼関係が崩れると、相手は2度と取材に応じてくれないだろう。筆者はフリーランスの記者なので、もし出禁リストにでも入ろうものなら死活問題だ。 でもフリーランスではなく新聞社や出版社の社員なら、メリット・デメリットを天秤にかけ、会社的にそれほど問題ではないかもしれない。 オフレコの本当の意味とは?(米紙) オフレコについて、「‘オフレコ’の本当の意味とは?」という、ニューヨークタイムズの2018年の記事も興味深い。 この記事が取り上げたのは、首相秘書官と毎日新聞の記者の関係とは逆の事例だ。 トランプ氏が大統領だった同年、ニューヨタイムズの発行人、A.G. スルツバーガー氏との会談において、ホワイトハウスの事前要請により両者の会話を公にしないこと(非公開=オフレコ)に両者が同意していた。にも拘らずトランプ氏はこの件について陽気に(悪気なく)ツイートしたという。また16年、テッド・クルーズ議員が数名の記者と同氏の会社が経営するホテルの飲食店でオフレコの会合を行った際も、事前の合意に基づきそれを報じた記者はいなかったが、翌朝の記者会見でクルーズ氏はカメラの前でこの件を明かしたという。オフレコ情報がクルーズ氏により明るみに出た今、「声を大に発表するのは気持ちいい」と記者は述べている。 これらの事例を基に「特定の会話の条件をめぐる論争は、多くのジャーナリストにとって常に懸念事項」と同紙は述べている。政治記者であるこの記者も「あらゆる政治家から、失言について事後に(オフレコを)嘆願されたことがある」とした。その都度「本名で報じるか、名前なしで報じるか、役職だけでぼかして報じるか?」と自問するそうだ。 また同記事は、オンレコとオフレコの取材について、簡単にまとめている。 公開(オンレコ)の取材 非公開(オフレコ)の取材 最後に、オフレコの発言をなぜ毎日新聞の記者は発信したのか。 まず、新聞社はスクープを常に探している。首相秘書官の差別発言は口が滑ったのか、はたまたオフレコだから絶対に記事にならないと過信し本音を明かしたのかは知る由もないが、このような要職の人物の差別発言を、一記者として新聞メディアとして野放しにすることはできないと判断したのだろう。オフレコという取り決めだったが、事前に本人に通達した上で掲載したとある。 筆者はこのスクープ記事を見たときに、日本の多くの記事ではまだ珍しく記者の名前が書かれていることに気づいた。一般的にアメリカの新聞社や雑誌社は文責を明らかにするため、記事は記名制だ。一方日本の新聞社や雑誌社が発信する記事は、文責が明らかにされておらず、一体誰が発信している記事なのかがわからないものが多い(よって、書きたい放題の記事も近年ネット上には散見される)。そんな中このスクープ記事には、記者の名前がきちんと入っていた。その場で問題発言を耳にした記者にとって、文責を明らかにした上で、聞くに耐えがたく社会的に到底容認できない問題発言を、正々堂々と報じたということだろう。 Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース 個人「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)無断転載禁止