気球だけじゃない。アメリカに忍び寄る中国の「スパイ活動」

数日間にわたりアメリカ本土上空を飛行していた中国の偵察用とされる気球(スパイバルーンと呼ばれている)は4日、サウスカロライナ州のマートルビーチ(大西洋)沖上空で、米空軍の戦闘機、エアフォースF-22によって撃ち落とされた。

米軍は、撃墜のためにF-22が離陸する様子や、撃ち落とされた気球の瓦礫の回収作業の様子を公開した。

戦闘機F-22が気球を撃ち落とす瞬間の映像

米軍の発表をまとめた地元メディアによると、気球の高さ(直径)は200フィート(約61メートル)で、重さ数千ポンドだったという。

自爆用の爆発物を搭載していた可能性について指摘する報道もある。気球の残骸は回収され、FBIの研究ラボで詳しい分析が進められているが、撃ち落とし一安心、とはいかない。

これまで、南北アメリカ大陸やハワイなど各所で確認された同様の気球。

アメリカに忍び寄る中国の「スパイ活動」

この国にじんわりと忍び寄る中国の諜報活動(スパイ)は、今回の気球だけではない。

ワシントンD.C.のシンクタンク、Center for Strategic and International Studies(戦略国際問題研究所=CSIS)は2021年、2000年以降に中国がアメリカに対して行った160件のスパイ活動をリストにまとめた。

それらのスパイ活動は、軍事技術の取得を目的としたもの、商用テクノロジーの取得を目的としたもの、民間機関または政治家の情報を取得しようとしたもの、サイバー攻撃に関係したものなど広範囲にわたる。

またそれらのスパイ活動の24%が2000年から09年にかけて、残り76%が10年から21年にかけて発生したもので、「北京(中国共産党)による悪質行為は近年増加の一途をたどっている」(ニューヨークポスト)。

また、160件のスパイ活動のうち89件が習近平国家主席が実権を握った後に発生したものだと、報告書には付け加えられている。

以下は、アメリカが中国からのスパイ活動だと非難しているものからいくつか抜粋して紹介する。

ハッキング

米司法省は20年、アメリカ及びそのほかの国にある100社以上の企業のコンピュータ・ネットワークにハッキングしたとして、中国国籍を持つ5人を起訴。

中国国内で逃亡中とされるハッカー集団は、中国共産党の承認を得て活動するサイバー攻撃グループ「Advanced Persistent Threat 41(APT41)」の一員と見られている。

人工衛星

18年5月時点で、中国は120基以上の人工衛星を打ち上げ、地球を周回させ、軍事や商用目的で偵察とリモートセンシング(遠隔探査)を行っていると、19年の米空軍による機密扱いではない報告書で明かされている。

「これらの衛星により、中国人民解放軍(PLA)が近隣地域の競争相手(インドや日本など)や要注意な国や地域(韓国、台湾、東シナ海、南シナ海など)の状況認識を可能にしている」「中国は(軍民両用で使用される)デュアルユース技術を備えたより高度な衛星技術を開発し、一部の分野では世界をリードしている」と報告書は付け加えた。

機密エージェント(工作員)

20年7月、知的財産の盗難疑惑に対応し、米政府はテキサス州ヒューストン市にある中国領事館の閉鎖を中国に命じた。それから2ヵ月後、当時のマイク・ポンペオ米国務長官は「ニューヨーク市マンハッタン区の中国領事館が北京のスパイプログラムの主要な拠点として使用されている」「彼らは通常の外交から一線を越え、スパイと似たような活動に従事している」と地元紙に語った。

元CIA防諜長官のジェームズ・オルソン氏も「常に100人を超える中国のスパイがニューヨークで活動している。その活動は大規模だ」と述べた。

ハニートラップ

ハニートラップとは、主に女性のスパイが男性に対して色仕掛けで誘惑し行う諜報活動のこと。

ニュースサイトのアキシオスは20年、中国の女性スパイと見られるファン・ファン(Fang Fang、別名Christine Fang)という名の人物が、エリック・スウォルウェル下院議員 (民主党、カリフォルニア州) をはじめ、複数の政治家に近づいていったと報じた。ファン氏は留学生として渡米し、サンフランシスコの中国系米国人政治団体メンバーとして活動。民主党系の知事や市議会議員に人脈を広げていったとされる。

ファン氏は諜報活動を米中西部にも広げ、少なくとも2人の市長と付き合っていたと報じられている。

Photo: 大統領候補として、19年カリフォルニア州民主党大会で演説をしたスウォルウェル下院議員。

ほかに法執行機関教育機関でも、スパイ容疑の逮捕者が出ている。

16年、中国生まれでアメリカの市民権を取得したFBIのベテラン電子技術職員の男が、11年から16年の間に、FBI職員のIDや出張スケジュール、内部組織図などの機密情報を中国に提供した罪で逮捕された。

20年には、NYPD(ニューヨーク市)警察の警官および米陸軍予備役の男が、マンハッタン区の中国領事館に勤務する職員に情報を渡した容疑で逮捕された(その後起訴は取り下げ)。

同じく20年、NASAの研究者でテキサスA&M大学の教授が中国政府が運営する広東工業大学との関係を隠しながら、連邦補助金で最大75万ドル(現在の為替で約9800万円)を受け取った罪で逮捕された。

以上は、報道(明らかになっているもの)のほんの一部だ。また前述のCSISのリストにあるスパイ活動は、オープンソース(公開されている資料)から得られたものだけで、日本を含む他国でのスパイ活動や、中国にある米企業や個人へのスパイ活動は含まれていない。よってインシデントの数は、実際にはこれより多いと見られている。

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Text by Kasumi Abe (Yahoo!ニュース 個人「ニューヨーク直行便」(c) 安部かすみより一部転載)無断転載禁止

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